このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年12月16日
キーワード・ポートフォリオ
マーケティングユニット 棚橋
Yahoo!の検索結果での表示順位が安定しない、という声をよく聞きます。
○○というキーワードでSEO対策をしていたのに、ある日、突然、順位が下がって、訪問者が減ったという声です。
実際、Yahoo!の検索順位は変わりやすいのは確かです。
しかし、表示順位が変わるたびに、チューニングを行ったりするのは、あまり得策ではありません。
それでは、常に対策が後手に回ってしまい、イタチごっこになってしまいます。
むしろ、訪問者を減らさないためのリスク低減の対策は、特定のキーワードに頼るSEO対策そのものを見直すことです。
投資のノウハウの1つである分散投資では、リスク低減のために資金をバランスよく配分したポートフォリオを組みます。
手持ちの卵を1つのカゴに入れておくと、そのカゴを落としてしまえばすべて割れてしまう可能性が高くなりますが、いくつかのカゴに分けておけばたとえ1つのカゴを落としても残りの卵は安全です。
同じように、サイトの訪問者数を増やしていくためのSEO対策でも、特定のキーワード(1つのカゴ)に頼ることなく、はじめから複数のキーワード(いくつかのカゴ)による集客を行っておけば、Yahoo!などの表示順位の変化というリスクにも対応できます。
この考え方をキーワード・ポートフォリオと呼ぶことにしましょう。
キーワード・ポートフォリオの考え方が重要なのは、ロングテール現象を思い起こしてみるとより明確でしょう。
そもそも、たいていのWebサイトでは、検索エンジン経由の検索キーワードは、アクセスが集中する一部のキーワードとそうでないキーワードの集積により、ロングテール現象を示しているはずです。
ページ数が多いサイトであれば、よりその傾向は顕著に現れているでしょう。
サイト自体の構造やHTMLソースの書き方、掲載されている情報内容にもよるので一概には言えませんが、基本的にはページ数の多いサイトのほうが検索エンジン経由で訪れる訪問者の数は多くなります。
ページ数が増えれば、記述されている単語の数も相対的に増えるわけで、それだけ検索語の対象になる語の数も比例するように増えます。
検索の対象となる語が増えれば、ユーザーの検索に対して検索結果画面に表示される確率も増えるわけで、それがアクセス数の増加にもつながるというロジックです。
このことを意識したSEO対策に有利な設計を行い、検索ロボットがリーダブルなWeb標準準拠による実装を行えば、あとは特別なSEO対策やイタチごっこ的なチューニングを行わなくても、ユーザーにとって価値のあるページ(情報)を増やしてさえいけば、自然にアクセス数は増えていきます。
また、その際に1つの視点からのみ情報発信を行うのではなく、同じ商品やサービスを訴求するのでもさまざまな角度から情報発信を行うことで、キーとなる語も増え、自然とキーワード・ポートフォリオの分散にもつながります。
GoogleやYahoo!などの検索エンジンは、いまやインターネット全体のデータベースの役割を果たしています。
そのデータベースにどれだけ自社サイトのデータを登録させ、いかにユーザーの目に触れるようにするかは、単に表示順位の問題ではなく、いかに多くの検索機会に対応可能な量のデータを検索エンジンというデータベースに蓄積できるかがさらに重要な意味を持つはずです。
ロングテールというWeb2.0的な概念が意味するものは、機能(アプリケーション)そのものはフリー(無料)化し、データそのものがより価値をもつ世界なのではないかと思います。
前回は「カスタマイズとモジュール化」と題して、個々の顧客に対応する商品・サービスのカスタマイズには、モジュール化が必要だと書きましたが、個々の情報を検索エンジンというデータベースに提供することで、その先のユーザーにカスタマイズした情報の提供を行うキーワード・ポートフォリオの考え方は、まさに情報そのものをモジュール化することにつながるでしょう。
検索エンジンとのイタチごっこはほどほどにして、ぜひその先のユーザーに対してどれだけ多くの価値ある情報を提供できるかに視点を移してみてはいかがでしょうか。
きっと、そのほうが期待するアクセス数の増加も見込めるはずですから。
さて、次回は「ブランド・ハイジャック」という観点から、企業サイトにおける情報発信の必要性について、もう少し深堀りしてみたいと思います。