このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年08月02日
ロングテール現象
マーケティングユニット 棚橋
ロングテール現象という言葉を最近、知りました。
昨年の秋頃から少しずつ米国で使われるようになった言葉のようで、単体では売上額の少ない商品でも、そういった商品が数多く集まったり、長い期間売り続けることによって、全体の売上額は結構な額になるといった現象を示すそうです。
簡単に言ってしまえば「塵も積もれば山となる」ということで、印象としては、これまでマーケティングの分野で参照されることの多かったパレートの法則(2:8の法則)と同じくパレート図で表される傾向を捉えながら、まったく正反対の戦略をとることの有効性を指摘したものです。
ご存知のとおり、パレートの法則が、パレート図で示されるような、全商品の20%が80%の売上を作る、全顧客の20%が全体売上の80%を占めるといった傾向を元に、ABC分析などの手法を用いつつ、「売上上位20%の商品(あるいは顧客)に集中せよ」といった戦略を示唆するのに対して、ロングテール現象はまさにその反対に「売上下位の80%の商品の売上も馬鹿にならない」ことを指摘することで新しい戦略の可能性を示唆しています。
ところで、私がこのロングテール現象という言葉の意味を知って「なるほど」とすぐにピンと来たのは、すでにこの現象が私にとっては非常に身近なものだったからです。
アクセスログ解析で「検索エンジンからの流入キーワード」を調べると、ほとんどのWebサイトでこれと同じ傾向が見られます。
アクセス数上位のキーワードが全体の2割から5割を占めますが、一方で残りの5割から8割はそれぞれではアクセス数が1件から5件ほどのキーワード(複合キーワード)の集積です。
このことが示すのは、一般的なSEO対策の考え方は間違いだということです。
一般にSEO対策というと、10~20個の主要なキーワードのみを上位表示すればよいと誤解されている傾向があります。
私たちが普段、お客様に説明する際には、サイト全体のアクセス数を増やすためには、それぞれでは1件~5件しか訪問のないキーワードも無視せずに、Webサイト全体に対して検索エンジン最適化を行うことの重要性を強調します。
先に、ロングテール現象は、パレートの法則と同じ現象を逆に読んだものだと書きました。しかし、実際にはロングテール現象を理解した上で積極的に「塵を積もらせる」戦略をとると、上位2割が全体の8割を占めるというパレートの法則を崩すことが可能です。
ロングテール現象を考慮して、Webサイト全体を検索エンジンに最適化すると、上位2割が全体の5割以下しか占めないという結果になることもあります。
これはどういうことかといえば、それだけ多くのユーザーのニーズに応じた接点ができているということにほかなりません。
このBlogでこれまで繰り返し述べている、継続的な改善のためには定期的なコンテンツの追加更新が有効といっているのはそのためでもあります。
基本となるWebサイト、そして、追加するコンテンツ・ファイルがともに検索エンジンに最適化されていれば、ページを追加すればするほど、ロングテールはますます長い尻尾になっていきます。
それは全体的なアクセス数が常に右肩上がりに上昇し続けることを意味します。
ネットショップでの商品売上でも同じことがいえます。
これまでのリアルの世界の常識では、大口の優良顧客への集中、売れ筋の商品への集中などという形で、パレートの法則に基づく戦略をとることがよいとされていました。これは単品では売上額の低い商品(顧客)につきあっても固定費をまかなえるだけの利益を出せないという制約条件があったからです。
そのため、リアルの世界では、ロングテールはトカゲの尻尾のように本体が生き残るための手段として積極的に切り捨てられる対象でした。
しかし、ネット世界とリアル世界のコスト構造の違いが、逆にロングテールを生き残るための手段に変えました。
在庫という大きな固定費を発生する要因を無視できるデジタルコンテンツのネット流通などでは、たとえ、単体のダウンロードは数えるほどしかないコンテンツであっても、Webサイト上にリスティングしておくだけでわずかながらも定期的に売上を生み出すなら、下手に「切り捨てる」より、「生かしておいて」有効に活用するほうがいいというわけです。
このネット世界での新しいビジネスの常識、つまり、トカゲの尻尾を武器として積極的に利用し、より長い尻尾を育て、売上、利益を生み出す戦略は、当然ながら、Webマーケティングの考え方やWebサイト設計、運用方法にも大きな変更を促します。
前回まで、3回にわたって考察した「時間によって頻繁に変化するWebサイトにおける情報デザイン手法」もこうしたネット世界の新しい常識、それに応じた戦略のためには必要不可欠なノウハウとなってくるでしょう。
さて、貴社Webサイトの「トカゲの尻尾」はどのくらい長いでしょうか?
ぜひ、その長い尻尾を積極的に育てる戦略をご検討されてみてはどうでしょう。
次回は新規顧客獲得のための営業ツールと題してお送りします。ご期待ください。
追記:
ロングテール現象は、Web2.0でも度々言及される概念の1つです。代表的なところでは、GoogleのAdwordsやAdsense、Overtureなどのサービスがロングテールを狙ったものだと言えます。