このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年07月29日
ストックとフロー
マーケティングユニット 棚橋
前回、前々回と積極的なコンテンツ運用を行う(=更新頻度の高い)Webサイトの情報デザインに関して考えてきました。
話題の中心としては「時間によって頻繁に変化するコンテンツ間に適切な関連情報ナビゲーション(=ユーザー導線)を保ち続けるには、どのような情報デザイン手法が必要になるか?」というもので、同じように、データの追加・更新・削除を効率化するツールであるデータベースの設計を参考にここまで話を進めてきました。
さらに今回は、こうした時間的な変化を踏まえた情報デザインを考える上で、参考になるものとして、ストックとフローの区別について考えてみたいと思います。
ストックとフローの区別は財務・会計の分野でよく用いられるものです。
ストックとは、ある時間的な1点における存在量を示すもの、フローとは、ある期間(時間的な2点)における存在量の変化を示すものです。
財務諸表でいえば、貸借対照表(B/S)で示されるのがストックで、損益計算書(P/L)で示されるのがフローです。
貸借対照表は、ある時点での企業の「資産、負債、資本」を示したもの、損益計算書は、ある一定期間における企業の「利益=収益-費用」を示したものです。
Webサイトの情報デザインといえば、これまではある時間的な1点において抽出した情報を組織化、構造化することで、Webサイトの設計を行うことが主流であったと思います。
既存の情報を対象として、ユーザー導線設計、レイアウト設計を行う方法論。ようするに、これは情報をストック的な視点で捉えた上での情報デザインです。
しかし、「時間によって頻繁に変化するコンテンツ間に適切な関連情報ナビゲーション(=ユーザー導線)を保ち続ける」ことを課題として捉えれば、フロー的な視点による情報デザインが必要になってきます。
ちょっと話題を変えますと、私たちが定期的なアクセスログ解析を行う際にも、基本的な視点として、ストック的な「量」とフロー的な「変化量」の2点に着目します。
「量」で言えば、Webサイト全体のアクセス数、特定ディレクトリ、コンテンツのアクセス数を対象にし、「変化量」なら流入キーワードの件数の変化によるSEO対策やリスティング広告の効果測定や、ユーザー導線の改善の効果があったかなかったかをページビューなどから判断する際に使います。
例えば、業界によっては、ユーザーが検索に使うキーワードが季節によって変化する場合があります。こうした変化をチャンスと捉えて、あらかじめ季節に応じたコンテンツを用意し、かつSEO対策を行っておけば、ユーザーの潜在的なニーズにマッチしたコミュニケーションが可能になるでしょう。
期待する効果を生み出すためには、このように積極的にWebサイトの側を変化させること(フローを発生させること)がポイントになってくるのです。
さて、話を戻しましょう。
いま、例をあげた挙げたことだけでなく、アクセス数などの変化(特にプラス面での変化!)をもたらすのは、スポット的なリニューアルではなく、コンテンツ運用をはじめとする継続的なWeb改善施策です。
ようするに、ある目標(例えば、1年間でアクセス数を2倍に!等)を達成するためには、こうした継続的な改善活動をあらかじめ計画として、コンテンツ運用の面でも、情報デザインの面でも設計(=デザイン)しておくこと、さらには、それを効率的に行うために、仕組みやシステムとしてある程度、自動化しておくことが不可欠だということです。
整理しますと、フロー的な視点に立った情報デザインのためには、以下の3点の設計・デザインが必要になります。
これら3つのデザインは、当然、整合性をもっていなければ、うまくまわりませんし、期待する効果も得られません。
しかし、ご覧になっておわかりのとおり、これら3つのデザインを行うためには、単にWebサイトの設計ができるというだけでは不十分です。
内容および量が動的に変化するWebサイトの情報デザインを行うためには、今までのWebデザインの方法論だけではまかないきれません。
一方で、BlogやCMS導入が主流になっている現在のインターネット環境において、Webサイトを使ったマーケティング効果を期待するのであれば、継続的改善を中心に据えたWeb運用が必須です。
こうしたビジネス環境におけるクライアント企業様のニーズに応えるためには、先の3つのデザインを統合した情報デザインのスキルをもったWeb制作会社の必要性は、今後ますます高まるはずです。
単にビジュアルデザインやリニューアル構築スキルだけで、Web制作会社を選んでいては、これからのWebマーケティングで成果をあげていくのはむずかしいでしょう。
さて、次回は、昨年秋頃から少しずつ米国で使われるようになったロングテール現象について考えてみたいと思います。お楽しみに。