このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年07月26日
データの正規化と情報設計
マーケティングユニット 棚橋
前回は、「情報デザインとデータベース設計」と題し、時間の経過とともに常に新しい情報の更新が行われるビジネス目的のWebサイトにおけるWeb運用において、いかにユーザーが求める情報導線を維持しながら、情報の更新を行っていけばよいかという点に着目して、話を進めました。
いうまでもなく、企業が競争環境の変化の激しい市場でサバイバルを行っていくためには、競合他社の変化、顧客の変化に応じて自らも柔軟な変化を行っていく必要があります。
それも外部の変化を後追いする形ばかりではなく、自ら変化を先取りする形で、市場の変化そのものを喚起するような企業活動、コミュニケーションを行っていくことも重要でしょう。
当然、そのためにはWebサイトにおけるコーポレート・コミュニケーション、マーケティング・コミュニケーションも、ターゲットユーザーに対して、常に新鮮な情報発信を行っていくことが必要不可欠です。
こうした環境におけるWebサイトはこれまでのようなリニューアル中心の考え方では、市場におけるサバイバルのための有効な武器とはなりえません。
常に、顧客の心をとらえ、顧客が価値を感じ続ける企業であり続けるためには、日々、顧客とのコミュニケーションを目的とした情報発信を行う運用重視のWeb戦略が重要となります。
そして、そうした運用重視のWeb戦略を、具体的な戦術として実行していくためにも、「リニューアル」という時間的な1点でのユーザー導線設計を行う情報デザインの考え方では、線的な時間の変化とともに更新され、増え続ける情報に対して適切なユーザー導線を保ち続けることは不可能で、これまでのように空間的な視点でのみで設計を行う手法から、時間的視点も取り入れた形でWebサイトの情報デザインを行うことが求められています。
こうした時間的視点も考慮したWebサイトの情報デザインを行う際に参考になるのが、データベース設計におけるデータの正規化とデータ集合の関係性に関する手法です。
データの正規化とは、データベース設計において、データの重複を排除し、更新時にデータ間の矛盾を防ぐことを目的に、管理するデータを一意に識別できる主キーから直接連想されるデータのみで構成されるように、個々のテーブルにグルーピングを行うことを指します。
また、こうした正規化を経たデータ集合同士の関係性をいかに設計するかも、リレーショナルデータベース(RDB)の設計においては、非常に重要な問題です。
以前に佐藤正美氏のT字形ER手法を紹介しましたが、T字形ER手法もすこし乱暴に単純化すれば、一意のIdentifierを付与されたentity(データ集合)を、4つの導出規則によってそれぞれのデータの関係性を規定する手法だということができます。
データベース設計における「データ」とWebサイトにおける「情報」は異なることを承知で考えるなら、データベース設計における正規化されたデータ集合とデータ集合同士の関係性は、Webサイトにおける個々のコンテンツあるいはカテゴライズされたコンテンツ群とコンテンツ群同士のリンク構造に相似しているように見えます。
このように見た場合、データの追加・更新・削除を前提に設計されるデータベースの設計手法をベースに、情報の追加・更新を前提にした運用重視のWebサイトの情報デザインを考えるのは非常に有効だと思います。
T字形ER手法では、entity(データ集合)を「日付」が帰属したeventと、それ以外のresourceに類別した上で、データ集合の間の関係性を記述します。
resource 対 resourceの関係は対照表を用いて示されますが、この対照表に「日付」の性質を付与し固有のIdentifierを持たせるとeventとして機能します。
たとえば、「商品」というresourceと「顧客」というresourceの対照表は、「発注」というeventとして機能するかもしれません。また、一方で「商品」というresourceと「営業マン」というresourceの間の対照表は、「受注」というeventとして機能するかもしれません。
しかし、ある会社ではこうした関係が成り立っても、別の会社ではこうした関係が成り立たない場合もあります。実際、私たちミツエーリンクスでも「商品」という明確なresourceは存在しませんので、関係性としては「顧客」と「営業マン」の2つのresourceの間に「受注」あるいは「発注」という関係が成り立ちます。
いずれにせよ、こうした関係そのものがビジネスにおける活動であり、こうした関係はその会社のビジネスモデルや顧客と企業との関係性の構築の仕方などによって異なるということです。
さて、こうしたことに目を向けると、Webサイトにおける情報発信を担う個々のコンテンツとコンテンツ間の関係も、企業のもつresourceとビジネス活動としてのeventに類別して考えることができるのではないかと思います。
たとえば、ユーザーの視点から考えても、ユーザーと企業(あるいは企業Webサイト)との関係には、時間軸に沿って、以下のようなさまざまな関係性が考えられます。
実際、以前のような商品カタログのような企業Webサイトはあまり見かけなくなりましたので、多くの企業サイトには上記のようなユーザーの要求を満たすコンテンツが用意されています。
また、ある程度は上記のような時間的推移によるユーザーの興味対象の変化も考慮に入れたユーザー導線の設計も行われるようになりました。
しかしながら、一方で企業自身の変化、新しい情報の追加を考慮に入れて、きちんと情報デザインを行っているWebサイトはまだまだ少ないために、せっかく新しい情報が追加されてもユーザーがそれに気づかないような構造になってしまっているWebサイトは少なくありません。
こうした機会損失が起こらないようにするためにも、情報の追加・更新を最初から視野に入れたWebサイトの設計が求められます。
それにはまず、データベース設計を行う際に実際のビジネス活動を捉えることが重要であるように、Webサイト設計においても自社のコア・プロセスと主要顧客をきちんと把握した上で、そこから必要な関係性(=リンク構造)を抽出することが重要な課題となります。(参考:インターネット戦略の実行 「現状の把握」)
その上で、データベース設計におけるデータの正規化、データ集合の関係性に類似する、各コンテンツ単位の設計とコンテンツ間のリンク構成の設計をしっかりと行っておけば、あとはBlogツールをコンテンツマネジメントシステムとして利用するなどの具体的な対策により、頻繁なコンテンツ運用を行いながら常に適切なユーザー導線が維持できるWebサイトの構築が可能になるでしょう。
Webサイトを、マーケティングツールとして顧客関係性の構築・維持のために利用したいという企業は数多く存在すると思います。
しかし、少なくともこうした具体的な情報デザインによって、想定される顧客関係性をきちんと情報構造、リンク構造として表現できていないWebサイトでは、期待する効果を達成することはむずかしいでしょう。
そのためにも、Webサイトの設計時には、単にビジュアル・デザインや個々のコンテンツの企画にばかり頭を悩ますのではなく、そもそも、自社がどのような顧客とどのような関係性を現在築いているか、また、今後築いていきたいかを明確に描いた上で、その描いた図そのものをWebサイト設計に反映していくことが重要です。
上記のような事業の現状、事業戦略に直結したWebサイトの設計に関して具体的にご検討の方は、ぜひお問い合わせページよりお気軽にお問い合わせください。
さて、次回もこの話題の続きで、ストックとフローと題してお送りします。お楽しみに。