このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2006年01月24日
CGM時代の情報の複製と創造性(後編)
マーケティングユニット 棚橋
「CGM時代の情報の複製と創造性(前編)」と題した前回のエントリーでは、BlogやSNS(ソーシャルネットワークサービス)などのCGM(コンシューマ・ジェネレイテッド・メディア)が広く利用されることによって、情報がユーザー間の引用、複製を通じて、これまで以上に広く、早く伝達されるようになってきたことをご紹介しました。
また、そうした複製によって、文化がそれ以前よりも広く普及していくようになる様は、Web2.0特有のものではなく、これまでも歴史上、何度か起こってきたことである点もご指摘しました。
複製可能性が高くなることで、文化がより広く伝播するようになるのは、考えてみれば、当然のことなのかもしれません。人間が使う言葉というコミュニケーションのツールそのものが、言葉そのものの複製的使用によりコミュニケーションを可能にするものなのですから。
進化生物学者のリチャード・ドーキンスは、1976年に一般向けに発表した著書『利己的な遺伝子』の中でミームという文化的複製子を提唱しました。遺伝子同様に宿主を自身の「乗り物」としながら自己複製による増殖という戦略により、種の存続を図るミームにとって、言葉は非常に優れた「乗り物」です。
同様の観点でみれば、これまで情報の受け手であったユーザーを発信者に変えたBlogは、ミームにとっての複製機会を大幅に高めた点で、これまでにない最高の「乗り物」だといえるでしょう。
しかし、一方でこんな疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか?
自社でもビジネスBlogをはじめてみたものの、訪問者数はなかなか増えないし、コメントやトラックバックもほとんどない。ホントにBlogによって、そんな情報伝達の高速化や影響範囲の拡大といったことが起こっているのかと。
そう、お考えになる企業Web担当者の方もいらっしゃるのではないかと思います。
そのようにお感じになられるのも無理ないかもしれません。
というのも、Blogを中心に作られたネットワークにも、インターネットではよく見られるようなロングテール現象が起こっているからです。
つまり、ブロガーたちのアクセスも、トラックバックもコメントも一部の有名ブロガーたちのBlogに集中している傾向が見られるのです。
そのことは、前々回、紹介したようなソーシャルブックマーク(del.icio.us、はてなブックマーク)で、ブックマークされる数を見てもわかりますし、BloglinesやはてなRSSのような同じフィード(RSS/Atom)を登録している数がわかるサイトでのフィード登録数を見れば、すぐに確認することができます。
図にしてみると、こんなになる感じでしょうか?
それゆえ、CGM時代の企業にとってのWebマーケティングの1つの課題は、「いかにしてユーザーに取り上げてもらえるような情報を発信できるか(特に有名なブロガーに!)」という点にあることがわかります。
自社の発信した情報をユーザーに引用/複製してもらうメリットは、1つには「情報の影響範囲がずっと大きくなる」ということがありますし、外部リンクが増えることでSEO効果が高まることや、ユーザーの支持が得られることで情報の信頼性が向上するといったことも期待できます。
では、どういう情報がユーザーに引用してもらいやすいのでしょうか。
それを考えるには前回も引用した茂木健一郎氏の『脳と創造性』の中のこんな言葉を参照してみるとよいのではないかと思います。
他者の存在が、自分自身が何者であるのかを発見する、あるいは新しい何かを創造する上で重要な役割を果たすことは、会話において典型的に現れる。会話においては、自分の中にすでにある情報が、他人に伝わるということだけが起こるのではない。他人の存在に触発されて、自らの中から新しい言葉が生み出される。言葉の生成に伴って、新しい自分さえ生まれる。そのような生の躍動(エラン・ヴィタール)こそが、会話の本質である。
茂木健一郎『脳と創造性』より
脳科学の分野では、複製と創造性の関連性に関する研究も進んでおり、1996年にイタリアの研究グループが猿の前頭葉の運動前野で発見したミラーニューロンという神経細胞は、他者の行為を自分自身の内的な運動表象に対応づけることで、自分の行為と他者の行為を結びつける役目を果たすものだと言われています。
ミラーニューロンはその後、人間の前頭葉にも見出され、その部位が人間の脳の中で運動性言語野とされるブローカ野にあったために、言語との結びつきも注目されているそうです。
茂木氏は、このミラーニューロンを元に「あたかも鏡に映したように自己の行為と他者の行為を共通のプロセスで処理する脳内モジュール」としてミラーシステムというものを提起しています。
良いソムリエが、客に合わせてそれまでにないワインについての語り方を生み出すことができるのも、人間の脳が自らの置かれた現場の文脈を読み、それにあわせた情報を発信できる能力を持っているからである。この文脈の読み込みに、ミラーシステムや、それを一般化した偶有性の神経機構が関与している。相手と自分の間に半ば偶然で、半ば必然の偶有性を構築できることが良いソムリエの条件である。ソムリエは、ワインに対するコメントを、客と「共創」している。
茂木健一郎『脳と創造性』より
ブロガー同士のトラックバックや引用でも、上記のような創造的なコミュニケーションが起こる場合があります。
単に自分のBlogのアクセス数を伸ばしたいためだけに、有名ブロガーのBlogにトラックバックを行う場合はともかく、他人のBlogエントリーに触発されて、自分自身の中の想像力が駆り立てられるという経験をしたことは、Blogで自身の考えをきちんと伝えようとしているブロガーであれば、決して少なくはないでしょう。
こうしたブロガー間のコミュニケーションを通じた創造のプロセスに、自社Blogで発信した情報をいかに取り込んでもらえるようにするかが1つのポイントなのでしょう。
それには、いろんな方法があると思いますが、例えば、
- 話題のトピックスに対するユニークで希少性のある意見の提示 ⇒どんな話題がブロガーに人気があるかは、はてなブックマークの「最近の人気エントリー」「注目エントリー」やkizasi.jpのデータが参考に
- 理解しづらい話題や用語に関する図式化やリスト化をともなうわかりやすい説明 ⇒例えば、Blogで成功する10の方法、Web2.0を図にすると、等
- 自社および自社に関連する業界の調査データやニュースなどの提供 ⇒ユーザーが自分の感じた主観的なコメントを自由に思いつきやすい、客観性のあるデータの提供
といった情報の提供は、ユーザーのトラックバックや引用につながりやすいのではないかと思います。
また、こういったブロガーにトラックバックされやすい情報というのは、同時に、ソーシャルブックマークへの登録やRSSなどの登録にもつながりやすいものでもあり、自社の発信する情報の影響範囲を広げるためには非常に重要なポイントだといえます。
これからますます本格化するであろうCGM時代において、自社の考えや活動をきちんと市場に伝えていくためには、こうしたユーザーを巻き込んだ形のコミュニケーションが重要になってくるのでしょう。
ひとごとではなく、当Blogもぜひとも他のブロガーに取り上げてもらえるような価値ある情報を発信していければと思います。
さて、次回は「RSS/Atom Feedを中心としたコミュニケーション」と題してお送りします。