このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2006年01月10日
サブスクライブ・オプティマイゼーション
マーケティングユニット 棚橋
前回の記事「Web2.0でWebマーケティングはどう変わる?」では、Web2.0時代のインターネット環境の変化によって、Webマーケティングがどのように変化するのかを考えてみました。
現在、BlogをはじめとするCGM(Consumer Generated Media)を利用してユーザーが積極的に発信することでWebページは急激に増え続けています。
総務省の発表によれば、2005年9月末の時点でBlog開設のための登録者数は473万人になったと言います。3月末の時点で335万人という発表でしたから、半年で100万人以上伸びていることになります。総務省では、2006年には621万人にまで拡大するとみているということです。
Web2.0という語を用いた議論にはいろいろありますが、Web2.0の本質的な部分には、こうしたユーザー主体の情報発信がインターネット上で大きな力を持つという点にあるのではないでしょうか。
例えば、この621万人というブログ解説登録者が1人につき週2回ずつ更新を行うと想定してみましょう。そうすると、1か月に約5千万ページ、1年もすれば6億弱のページがインターネット上に増えることになります。これはあくまで日本だけの数字です。GoogleがWebサイトで公表している検索対象のWebページはたかだか80億以上に過ぎません。それが個人のブログだけで1年間で6億ページ追加されるとなるとなると、インターネット上でいかにユーザーの注意を自社の発信する情報に惹きつけるかという競争は一層激しくなることは間違いありません。
アテンション・エコノミーという言葉も生まれていますが、1つ1つの情報に対する価値は相対的に下がり、人々のアテンションをうまく惹きつけられた情報だけが価値を持つようになるでしょう。情報量が爆発的に増え続ける一方で、人々が注意を寄せることの可能なリソースの量は限られています。ロングテール現象といえば聞こえはいいのですが、長く伸びたトカゲの尻尾的な情報にはほとんど誰も関心を寄せないということにもなりかねません。
企業のWebマーケティングを考えても、これまでのように検索エンジン頼りではユーザーの注意を惹きつけるのはむずかしくなるはずです。情報量の増加に対してユーザーが示すアテンションに限りがあるのと同様に、ユーザが自発的に行う検索の数にも限りがあるからです。ユーザーは新しい情報を見つけるのに、自分で検索キーワードを考えるよりも、手っ取り早く他人のブックマークや評価をあてにするようになるのは自然なことでしょう。
実際、すでにBlogやソーシャルネットワークなどを利用するユーザーが作るインターネット上のトラフィックは、これまでのようなポータルなどへの多極集中から、CGMやソーシャルブックマークサービス、イメージ共有サービスなどWeb2.0的なメディアなどに分散していく傾向が見て取れます。
上の2つのグラフはAlexaによるトラフィック量の比較を示すものですが、上のYahoo!、Google、MSNなどがほぼ横ばい傾向であるのに対して、下のdel.icio.us、Flickr、BloglinesなどのWeb2.0的サービスは右肩上がりにトラフィック量が増えているのがわかると思います。もちろん、こうしたWebサービスは米国のものですので、日本の現状がすでにそうなっているとは言い切れません。しかし、現在のWeb2.0への関心、ブログやソーシャルネットワークの利用者数の増加を考えれば、日本でもこれに追随するトラフィックの変化が見られるのもそう遠くないことが予測できます。
前回指摘したのは、増加傾向にあるこうしたWeb2.0的メディアに集まるユーザーのトラフィックからいかにして自社サイトへのアクセスを集めるか、また、それに必要な情報の継続購読者をいかに増やすかが今後のWebマーケティングのポイントになるということでした。
繰り返しますが、これまでであればYahoo!やGoogleからSEO/SEMによって集客することを考えれば済みました。
しかし、増加するWebページの量がユーザーの情報収集の方法を、これまでのような検索、ポータルにたよるだけのものから、より自分が興味、関心のあるものの情報をもつ人たちへのつながりを重視した情報の収集方法へと移行する傾向にあります。
それが数字となって現れたのが上のグラフであると考えてよいでしょう。
当然、今後はこうしたユーザーの流れをいかに取り込むかを考えることがWebマーケティングのポイントになってきます。
こうしたWeb2.0的な傾向は、まだはじまったばかりだと言えます。
逆に言えば、こうした傾向はますます加速する傾向にあると言えるでしょう。
こんな動きもそれを裏付けていると言えるのではないでしょうか?
マイクロソフトは、Windows VistaのRSS Feedのプラットフォームのプレゼンテーション資料の中で、次のような進化(Evolution)の段階を提唱しています。
- Browse:閲覧
- Search:検索
- Subscribe!:継続的購読!
参照元:"Microsoft Team RSS Blog : Team RSS at PDC ’05"、PPTファイル:PDC 2005: DAT320 Windows Vista: Building RSS-enabled applications(該当箇所は36ページ)
次代の主力商品であるWindows Vistaのプレゼンテーションの中でこうした提唱を行うのも、先に示した事実をマイクロソフトも重大なものとして認識しているからと考えてよいでしょう。
今後、企業のWebマーケティングにおいて考慮すべきは、1.「Subscribe:継続的購読」をいかに増やせるか、2.ユーザーによって共有される情報の中にいかに自社のコンテンツを取り込んでもらい、そこから新規のユーザーを獲得できるか、という2点ではないかと思います。
こうした課題への取り組みを、これまでトラフィックの集中していた検索エンジンに対して最適化を行うことをサーチエンジン・オプティマイゼーション(SEO)と呼ぶのにならい、サブスクライブ・オプティマイゼーション(SSO)と呼んでみてはどうでしょうか?
では、どうやってサブスクライブ・オプティマイゼーションを実行するか?
前回も指摘しましたが、もちろん、「Subscribe:継続的購読」を増やすための重要なキーは、いかにコンテンツの内容、情報そのもののもつ価値を高めることができるかです。
まずは何よりいかにユニークで、価値のある情報を発信できる体制を自社の中に構築できるかがポイントでしょう。情報発信の量とスピードも重要なことも前回指摘させていただいたとおりです。
ツールとしては図で示したようなPermalink(トラックバックが可能ならなおよい)とRSSがあればよいので、やはりBlogを組み込むのが得策かと思います。
あとはこうした最適化の効果測定をどのように行なっていくか? これに関してはまた別の機会に紹介できればと思います。
最後に、Web2.0といえばAjaxも話題の要素の1つですが、本日、弊社でも新サービス「Ajaxナビ」をリリースしました。
Ajaxといえば、Googleローカルで一気に話題となりましたが、他にもAmazon.comの独立部門が立ち上げた検索エンジンA9.comやリクルートの地域情報検索サービスドコイク?などで使われています。
次回は「Ajax:リッチなユーザーインターフェイスの実現」と題して、Ajaxとはどんなものか、それによって何が変わるのかを考えてみたいと思います。お楽しみに。