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このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。

2006年02月10日

Web2.0の議論で欠けているもの(後編)

マーケティングユニット 棚橋

前回のエントリーでは、Web2.0時代に一般企業がWebマーケティングを考える上での3つの戦略的なポイントのうち、1つ目の「1.Search、Subscribe、Shareの最適化」について考察してみました。
今回は続けて、「2.社外向けWebのユーザーエクスペリエンス向上」と「3.イントラネットの改善、社外向けWebとの連携」について考えてみたいと思います。

2.社外向けWebのユーザーエクスペリエンス向上

前回、「1.Search、Subscribe、Shareの最適化」について考えた際、ポイントとして挙げさせていただいたのは、情報量が指数関数的に増えるのに対し情報の受け手側の許容量は変化しないアテンションエコノミー下の情報環境においては、情報の流通形態が供給側に選択権があるサプライベースから需要側に選択権があるデマンドベースに変化していくことを念頭においた情報発信の形を考える必要があるといったことでした。

デマンドベースの情報発信を実現するための中心的な技術はRSS/Atom FeedをはじめとするXML技術です。XML技術はこれまで各サイトごとに固有な形で閉じ込められていた情報を、サイトの垣根を越えて流通させます。具体的には、BlogのRSS/Atom FeedがRSSリーダーやBlog検索サイト、Firefoxのライブブックマークなどに複製・転写されていくことを思い浮かべていただければよいかと思います。

これまでなら、こうした複製・転写による情報流通の効率化をほとんど一手に引き受けていたのは検索エンジンでした。最初は、リンク集を発展させたYahoo!のディレクトリ検索などでしたが、後発で登場したロボット型検索のGoogleはサイト間のリンク構造(バックリンク)を詳細に分析することでユーザーが必要としている情報とのマッチングを向上させました。
現在、Googleは「80 億以上もの URL を検索できます」と言っていますが、こうしたユーザーの利用コンテクストと情報のコンテクストをマッチングさせる技術は、スパム対策の強化なども含めて、情報量が増えると比例する形で向上してきたということができます。

つまり、オンデマンドでの情報を可能にするためには、

検索が知能をそなえるためには、リクエストを理解できなければならない。「問題はなにかを見つけることではなく、なにが問題かを理解することです」とマッカーサー財団から天才賞を贈られたコンピュータ化学者のダニー・ヒルズは言う。そして人間が本当に探しているものを、検索エンジンが理解できるかどうかにかかっているとする。

ジョン・バッテル『ザ・サーチ』より

というわけです。
ユーザーがどんなニーズを持っているか理解できなければ、適切な解決策を返すのはできないということです。

しかし、オンデマンドということを考えるとき、Googleのようなアルゴリズムに問題がないわけではありません。

正のフィードバック
1つには、このアルゴリズムが正のフィードバックを誘発しやすいということです。正のフィードバックとは、本やCDなどで売上のランキングが上位のものはより売れ、ランキングが下位のものは売れないという現象を起こす力を指します(ちなみに反対の意味の負のフィードバックは、暖房器具や冷房器具などが設定温度と現在の気温の比較により、その暖房/冷房機能の働き具合を調整するような力を発揮することを指します)。
SEO対策を行う業者がよく口にする「検索結果の10位以内もしくは20位以内(つまり検索結果の1ページないしは2ページ以内)に表示されないとユーザーがサイトを訪れない」という言葉は、実際、検索エンジンが正のフィードバックを引き起こしていることを示すものでしょう。結果として生まれるのはお馴染みのロングテール現象です。
キーワード検索
この正のフィードバックがもう1つの問題にも影響を与えます。
そのもう1つの問題とは、検索の方法がキーワード検索(クエリ検索)に集中していることです。当然、ユーザーは自分の思いつくキーワードでしか検索できません。しかも、思いつくキーワードで検索した場合、表示される検索結果のリストは正のフィードバックに従えばあまり変化が期待できないものです(なぜならランクの高いものはさらに評価が高くなる方向に正のフィードバックが作用するから)。
複合語(フレーズ)で検索してもうまく目的のものが見つからない場合もあるでしょう。特に名前をど忘れてしてしまったものを探そうとした場合などは大変です。
異なるアルゴリズムをもつWeb2.0的な検索方法
こうしたGoogleに代表されるロボット型検索におけるユーザー利用コンテクストと情報のコンテクストのマッチングの間の問題を解消してくれるツールとして有効なのが、Blog検索やソーシャルブックマークなどのいわゆるWeb2.0的なツールだったりします。
Blog検索の検索結果のランキングの多くは単純に「更新順」で表示します。そのことでロボット型検索ではロングテールの尻尾の部分に含まれてしまう情報にも陽の目をあてることがあります。
一方のソーシャルブックマークでは、タギングとユーザーのブックマーク数の組み合わせにより、ロボット型検索とは異なる形で、ユーザー間でシェアされたコンテクストをランキング化することで、異なる景色を可視化してくれます(参考:はてなブックマークの人気エントリー/注目のエントリーdel.icio.usのpopular etc.)。

もちろん、上記はGoogleのような検索アルゴリズムとWeb2.0的な検索方法のどちらが優れているという話ではありません。ユーザーが用途に応じて使い分けれるという意味で、異なる検索方法がある程度、存在していたほうが便利なのでしょう。

しかし、情報を供給する側から見ると、話は違ってきます。
現在の検索エンジンへの最適化(SEO)は、Googleのようなアルゴリズムをもった検索エンジンのみに最適化を行っているはずで、上記で挙げたWeb2.0的な検索方法に対する最適化は未対応なのではないかと思います。

さて、こういう風にいうと、次のような疑問をもたれる方もいるかもしれません。
「自社のサイトのアクセスログ解析をしているが、はてなやBloglinesからのアクセスはGoogleやYahoo!に比べると10分の1にも満たない数で無視してもいいのではないか」と。
しかし、それはこれまでの検索エンジン対策の実施前後でも同じだったはずです。GoogleやYahoo!からのアクセスなんてたかがしれているのに、本当にSEOなんてやる効果があるのかと。でも、実際にやってみた方ならわかったはずです。検索エンジンへの最適化がどれだけアクセスアップに効果があるのかを。

同じことがWeb2.0的なメディアに対する最適化にもいえます。
なぜ、そういえるかといえば「やってみた」からです。

当Blogでは今年に入って、実験的にWeb2.0的なメディアに対する最適化になると思われる対策をいくつか実施しました。その効果はようやく出始め、はてなやBloglinesからのアクセスがそれぞれMSNからのアクセスに匹敵するようになりました。GoogleやYahoo!と比較すると、まだ、そのアクセス数は15%から20%くらいですが、それでも実施前が1~2%であったことから比べると効果は出てきたといえますし、まだ、実施していない最適化の方法もあることや最適化を実施しはじめて1ヶ月程度である点を考慮すれば、まずまずの数字だと思っています。
Microsoftが次のIEのバージョンに、Firefoxのライブブックマーク同様のRSS/Atom Feedリーダー機能を追加することも、こうした最適化に必要性をさらに強めることになるでしょう(参考:IE7 Beta 2のプレビュー版)。

さて、ここまで前編、中編からとおして読んでいただいた方はもうお気づきかもしれませんが、この最適化には2つの必要条件があるということです。
それはRSS/Atom Feedが発行されていることと定期的な情報更新が行われているということです。
前回のエントリーの「Web2.0時代の企業Webサイト構築の戦略モデル」という図はそのことを示しています。
つまり、Googleのようにどんな形で書かれていても柔軟にWebページを読み取ってくれるものとは異なり、Web2.0的な「形式知の共有」を図ることを目指したツールは決まったお作法(RSS/Atom Feed)を必要としたり、より気まぐれな生き物であるユーザーの興味を持続するための更新頻度といったものが必要とされるわけです。

さらにいえば、RSS/Atom Feedは更新情報を伝えるためのメタデータのみを持ったものから、メタデータにコンテンツを付加したよりリッチなもの(Podcastもその一例)に移行しつつあります。
そうなれば、ユーザーはわざわざ情報供給元のWebサイトを訪れることなく、RSSリーダー上で情報の閲覧を済ましてしまうこともあるでしょう。
すると、次のことも同時に起こります。

情報があらゆる意味でそれをパッケージしていたものから分離されたまま、流通し、消費されるというのは、これまでのマーケティングの常識からみるととても奇妙に思えますし、ある意味、受け入れがたいことだったりします。それは従来のWebサイトの設計の仕方からみても同様でしょう。
しかし、デマンドベースの情報の流通ということはつまりこういうことなのです。それが奇妙に見えたり、受け入れがたく感じられるのは、いかに従来のサプライベースの思考にどっぷり浸かってしまっているかということを示しているのでしょう。

ビット(情報)ではなくアトム(物財)を扱うマーケティングの世界でもかつて同じことがいわれたはずです。
プロダクトアウトからマーケットインへ、と。
オンデマンドの時代に、社外向けWebサイトのユーザーエクスペリエンスを向上させることを考えれば、それがどんなに奇妙で受け入れがたく思えても、こうした発想を受け入れていくしかないのではないでしょうか。

3.イントラネットの改善、社外向けWebとの連携

さて、随分、長くなってしまったので、最後のこの項目に関しては、簡潔にまとめたいと思います。
というのも、実は社外向けのコミュニケーションと社内向けのコミュニケーションでそう多くの違いはないと思うからです。むしろ、社内と社外のコミュニケーションが違えば、それだけユーザー側の負担は増えるでしょう。もちろん、検索1つとっても社外の情報を検索するにはGoogleなどが利用できるのに対して、社内の情報はそうもいかないという無視できない違いもありますが、それはまた別の機会に論じることにしましょう。

むしろ、ここでは社外向けと社内向けのコミュニケーションの垣根をなくす方向での事例をいくつか紹介したいと思います。

弊社の事例
  • 社内風景:スタッフの写真とPodcastによる生の本人の声を紹介
  • 先輩たちのHot Voice:イントラネット上での業務日報の項目「今日の感想」から、毎日熱いメッセージをピックアップして紹介
  • 経営者の独り言:社外向けのメッセージと同時に、社内のスタッフへのメッセージも同時に配信
他社の事例
  • はてな技術勉強会(株式会社はてな):はてな社内の技術チームで行った技術勉強会を音声と資料で公開
  • naoyaのはてなダイアリー(株式会社はてな):はてなのCTO、伊藤直也さんのBlog。やはり、社外向けのメッセージと社内向けでもありそうなメッセージを分け隔てなく公開

イントラネットを社外向けのWebと完全に切り離して考えてしまえば、エンドユーザーであるスタッフに必ず負担が生じます。はじめに書いたとおり、ただでさえアテンションエコノミーと言われている時代で1人1人が処理しなくてはいけない情報量は日々増える一方です。そうした状況でイントラネットと社外向けのWebが異なるツールで情報の閲覧を行わなければならないのだとしたら、個々のスタッフの負担は必要以上に増え、当然、そのツケはどこかしらに回ってしまうでしょう。

また、個々の企業単位では外部向けの情報発信をこれまで以上に積極的に行っていく必要があるのは、これまで書いてきたとおりですし、「Blog:リテラシーを身につけるためのメディア」のエントリーでも触れました。そうでなるなら、先に挙げた事例のように、差し支えのない範囲で社外向けコミュニケーションと社内向けコミュニケーションを同時に行ってしまうことで、情報発信のコストを下げることも重要なことではないかと思います。

当然、こうした形での社内文化の開示は、マーケティングやIR、採用を考える上でも企業の信頼や親近感に結びつくことも考えられるでしょうから。
「イントラネットの改善、社外向けWebとの連携」というテーマを考えるとき、単にインフラやツールの側面からのみ考えるのではなく、こうした形でそもそもの情報流通の目的から考えてみることも必要なのではないかと思います。

さて、長くなってしまいましたが、「一般企業にとってのWeb2.0の影響またはメリット」についての考察はここまでとして、次回は前編で掲げたWeb2.0の話題で欠けている3つのもののうち、「Web2.0的なものへの代替手段」について考えてみたいと思います。

Web2.0の議論で欠けているもの(前編)
Web2.0の議論で欠けているもの(中編)

PS.
ちなみに今回のエントリーが記念すべき(?)100本目のエントリーでした。これまでのエントリーを振り返るなど、記念になるエントリーにしようとも考えていたのですが、通常通りの形で進めさせていただきました。
この場を借りて、これまで読んでいただいた皆様に感謝を述べるとともに、これからも当Blogをご愛顧いただけるよう、お願い申し上げます。
皆様とこれからのWebマーケティングについて、いっしょに考えていければと思いますので、コメントやトラックバックを通じたご意見もお待ちしております。

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