このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年11月22日
経験価値の4E領域
マーケティングユニット 棚橋
経験経済という言葉を最初に紹介した『経験経済-脱コモディティ化のマーケティング戦略』(B・J・パインII+J・H・ギルモア著、ダイヤモンド社)は、コモディティ、製品、サービスに続く第4の経済価値として、経験を売り物にする企業が利益をあげる経験経済について書かれた本です。
経験価値と他の経済価値との違いを明示するため、著者らは下記のような比較を行なっています。
つまり、経験経済下で価値を持つ「経験」という商品は、顧客の便益のためにカスタマイズされた形のないものとして提供される「サービス」とは異なり、顧客の感動のために個人的な思い出になるよう演出されたものだということです。
経験はサービスと同じように形はなくても、顧客に訴えかけるものが機能的な便益か、情緒的な感動かという面で大きく異なると考えればよいでしょう。
そう考えると、これは何も一般の消費者だけを対象にしたものだけではなく、B2Bのビジネスモデルをもつ企業でも考慮に入れるべき事柄ではないかと思います。
実際、著者らが、経験とエンターテイメントを同一視するという、みんなが陥りやすい過ちに警鐘を鳴らしているのも、そうした意味も含んでのことでしょう。
著者らは、顧客参加度を横軸(左端に受動的参加→右端に積極的参加)、顧客と経験を深く結びつける関係性を縦軸(上端に経験への離れた場所からの参加→下端に経験の一部として入り込んだ状態)の2軸からなるマトリックスにより、経験価値を以下の4つの領域に分けています。
この4E領域を見ると、B2Bのビジネスモデルをもつ企業でも、クライアント企業に対して価値ある経験を重視することで、クライアントのニーズをより高いレベルで満たすことができそうなことがわかります。
例えば、Educational(教育)という領域を考えれば、コンサルティングや文字通りの教育を提供する企業にあてはまりますし、Esthetic(美的)という領域であれば、仕事をする環境やセミナーなどのイベントを開催する場所の演出など、あらゆる場面でのクライアントの経験を向上することが可能ではないかと思います。
経験価値の売り手である企業は、製品やサービスをツールとして用いることで、顧客の経験を演出し、価値を感じてもらいます。
その意味で、自分たちがいまどんな業界にいるのかは、製品経済やサービス経済と経験経済を隔てる障壁にはなりません。
これは別の見方をすれば、どんな企業でも、顧客の経験に焦点をあてて自社の事業を見直せば、自分達の売り物を製品、サービスから価値ある経験へと変更させることが可能だということに他ならないでしょう。
こうした見方で自社のWebサイトを見直してみると、どうでしょう?
貴社のWebサイトは、顧客が購入後の自身の成功をイメージできるような、エピソードやストーリーで満たされているでしょうか?
また、顧客が経験する価値を高めるような魅力ある仕掛けがWebサイトにあったりするでしょうか?
そんな風に、ユーザーが見るWebサイトの視点から、自社のビジネスのあり方を捉えなおすのもよいのではないでしょうか。
では、どうすれば、自社が提供する経験価値をWebサイトで演出できるのでしょうか?
次回はそのことを「経験価値の演出」と題して考えてみたいと思います。