このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年08月30日
セマンティックWebの時代の企画力・編集力
マーケティングユニット 棚橋
前回は、「セマンティックWebの可能性」と題して、コンテンツ内容に関する情報をメタデータとしてWebページに持たせることで、コンピュータが意味的にその内容を理解できるようにするセマンティックWebの技術に関して、取り上げました。
同時に、セマンティックWebの技術の限界として、セマンティック(意味論的)であるという場合の「意味」が、人は規則に「私的に」従うことはできないという反-私的言語論を含む「意味の使用説」に従うものであり、それゆえ、すでに現実世界において共通の規則として用いられる「意味=規則」を対象にすることでしか有効に活用することはむずかしいということにも触れました。
ようするにセマンティックWebが実現するのは、より精度の高い検索性であり、決して、人の代わりに答えを導き出してくれるような人工知能的リコメンド機能ではないということです。
さて、そうであれば、なおさら、今後のWebコミュニケーションに必要になってくるのは、コンピュータの代わりに、人に対する答えを導き出すリコメンド機能としてのマーケティング企画力・コンテンツ編集力になるのではないかと思います。
現在でも、例えば、Webサイトを事業戦略上、重要なものとして位置づけ、マーケティングあるいはブランディングを目的としたツールとして最大限の活用を考えた場合、その設計には統合的かつ緻密な編集力が求められます。
ここで「編集」というと、さまざまな構成要素を編みあげ、最終的にひとつの成果物を作り上げていく作業のように思わますが、実際は、要素を考える前に全体が見えていないと決してうまくはいきません。
前回も書きましたが、「部分の集合は全体ではない」のです。
Webというメディアは、さまざまな志向性をもつ複数のユーザーに対して、それぞれの好みや考え方に応じたコミュニケーションが可能なメディアであるといわれます。また、One to Oneマーケティングにも適したメディアであるともいわれます。
Webサイトをこのように捉えることはまったく正しく、Webサイトでマーケティング・コミュニケーションを考える場合、マス・コミュニケーションとは異なる複数の関心をもったユーザーを対象にしたコミュニケーション、ユーザーを識別したコミュニケーションをメインに考えることが成功の秘訣です。
しかしながら、「それが正しく、それをメインに据えることが成功の秘訣である」ということと、「それだけを行っていればいい」ということは違います。
Webサイトにおいても、ユーザー全体をとらえたコミュニケーションの一貫性は、企業・ブランドの一貫性を市場に浸透させる上でも必要なものです。
しかし、実際には、Webサイトでのコミュニケーションを設計する際に、こうした重要なポイントが抜け落ちてしまうことがよくあります。
個別のコンテンツはよくできていても、全体的な統一性に欠ける、コンテンツ間の整合性がとれていなかったり、関連するコンテンツ間にユーザー導線(リンク)が存在しないといったWebサイトもよく見かけます。
これまで(そして、今でもそうですが)Webサイトの設計というと、どうしても技術寄りの話(SEO対策やユーザビリティも含め)だったり、そうでなければ、ビジュアル(見栄え)の話が先行しがちで、コンテンツの中身の話はおろそかになりがちでした。
また、コンテンツの中身の話でも個別のコンテンツについてはその中身が議論されることはあっても、Webサイト全体を通して、1冊の雑誌や書籍の編集を行うようには、中身の議論を綿密に行われることはなかったのではないかと思います。
しかし、先にも述べたように、Webサイトを事業戦略上、重要なものとして位置づけ、マーケティングあるいはブランディングを目的としたツールとして最大限の活用を考えた場合には、Webサイト全体のコンテンツの構成・コミュニケーションの中身について、詳細にわたって議論が必要なことはいうまでもありません。
雑誌の編集を行うのに、雑誌の紙の質や印刷の色、レイアウトの話ばかりをして、雑誌全体の構成や中身の話をせずに発行するなどということはありえないでしょう。
しかし、これまでのWebサイトの構築においては、そうした異常な事態がまかり通っていたような面があります。
ただ、セマンティックWebの時代を迎え、Web全体の検索性が高まれば、これまでSEO対策で単純に表示順位での競争を行っていた時代以上に、Webサイトはユーザーから中身そのもので競合他社のWebサイトと比較されるようになり、コンテンツそのものでの競争を行わなくてはならない時代がやってくるはずです。
その際には、マス・コミュニケーションにおいて、広告のクリエイティブを細かく吟味し制作を行っていたように、Web制作においても、おなじくらいコンテンツの企画面、クリエイティブ面に力を入れなくてはいけない時代がやってくるでしょう。
そして、それは本格的にセマンティックWebの時代を迎える前に、すでにSEO対策やリスティング広告のみの施策の限界からその兆候が現れ始めているようにも見えます。
さて、貴社のWebサイトはそうしたコンテンツ全体を企画・編集するという面できちんと設計されているでしょうか?
もし、まだ、そうした視点でWebサイトの設計が行われていないのであれば、この機会に一度、見直しを図ってみてはいかがでしょうか?
次回は、カタログと目録 ~売買の場における情報デザイン、ユーザビリティ~と題して、美術カタログの歴史を参照することで、セマンティックWebの時代を迎えるにあたって、Webマーケティングにおける情報デザイン、ユーザビリティの方法論について再度考えてみたいと思います。