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実践!Webマーケティング:Blog

このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。

2006年04月04日

集合知の利用

マーケティングユニット 棚橋

Web2.0を語るキーワードの1つに「集合知の利用」があります。

「集合知の利用」といえば、オンライン百科事典のWikipediaや、del.icio.us、Flickrなどのサイトで使われるFolksonomy(ソーシャル・タギング)、LinuxやPHPなどのオープンソース・プロジェクトなどを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
こうしたWebサービス、オープンソースの恩恵を受けている方にとっては、もはや「集合知の利用」などという言葉はいまさらと感じるのかもしれません。

しかし一方で、Webの情報そのものの信頼性に疑問を持つ方は「集合知の利用」といわれても、ネガティブなイメージを持ってしまったりもするのではないかと思います。
また「群集心理」という言葉に代表されるように、一般的に集団は個人を愚かにしたり、狂わせたりするものだと思われていることもあり、そもそも「集合知」というものに対して懐疑的な方もいらっしゃるでしょう。

こうした2者間のギャップは、単にWeb2.0というワードには還元できない、より深いレベルでの思想の相違があるように思います。
今回と次回は、このギャップに潜む思想の相違とはどういうものか、また、今後、ギャップは解消されるのか?といった点を考えてみたいと思います。

■「みんなの意見」は案外正しい

「集合知の利用」を理解する上では、全米でベストセラーにもなった『「みんなの意見」は案外正しい』(ジェームズ・スロウィッキー著、原題:The wisdom of crowds)という本が参考になります。

著者のスロウィッキーは、この本で主張しているのは「専門家を追いかけるなんてことは間違いで、しかも大きな犠牲を伴う間違いだ」ということだと書いています。一握りの天才や専門家の判断よりも、普通の人が集まったごく普通の集団の判断の方が実は賢いことが往々にしてあることを示し、「専門家を追いかける代わりに、集団に答えを求めるべきなのだ」と述べています。
また、この本は梅田望夫さんの『ウェブ進化論』の中でも紹介されており、"「適切な状況の下では、人々の集団こそが、世の中で最もすぐれた個人よりも優れた判断を下すことがある」というテーマを追求した刺激的な本"と評されています。

スロウィッキー氏は、集団の知が専門家を含めた個人の知を凌駕する理由をきわめて簡単に説明しています。

個人の回答には情報と間違いという2つの要素がある。算数のようなもので、間違いを引き算したら情報が残るというわけだ。

ジェームズ・スロウィッキー『「みんなの意見」は案外正しい』より引用

つまり、集団の知恵は単に個々人のもつ情報が足し算されるだけでなく、集団の回答を均す際に「一人ひとりの個人が回答を出す過程で犯した間違いが相殺される」ことで、プラス面でもマイナス面でも優れた専門家の知恵を超える可能性が高くなるのです。

■賢い集団の4つの特徴

とはいえ、スロウィッキーもすべての集団が賢い判断を下せるといっているわけではありません。

暴動や株式バブルを考えてみればすぐわかると思うが、個人の判断を積み重ねることで集合的にまったく合理性のない意見がつくられることがある。(中略)このような失敗は、本書の主張を裏から支える証拠だ。集団が賢くあるためには欠かせない多様性と独立性という条件がないと生じる事態を端的に示すからだ。

同上

多様性と独立性を含め、スロウィッキーは集団が賢くなる際の特徴として以下の4つの要件を挙げています。

  1. 多様性:それが既知の事実のかなり突拍子もない解釈だとしても、各人が独自の私的情報を多少なりとも持っている
  2. 独立性:他者の考えに左右されない
  3. 分散性:身近な情報に特化し、それを利用できる
  4. 集約性:個々人の判断を集計して1つの判断に集約するメカニズムの存在

個々人がもつ私的情報は常に不完全な情報であり、そのため、私たち個々は「有限の合理性しか持ちえない存在」です。しかし、「制約がどんなに多くても、一つひとつの不完全な判断が正しい方向に積み重ねられると、集団として優れた知力が発揮されることも多い」そうです。

これは見方を変えれば、PDCAサイクルによる継続的改善において、プラスを積み重ね、マイナスをそぎ落としていく累積的な過程と同様のものであるといえるのではないでしょうか。
その際、両者の違いはそれが時間的に多様性、独立性、分散性をもつのか、集団のメンバーである個人間でそれらをもつのかの違いだと考えることもできると思います。

■集合知と情報淘汰

継続的改善においても、賢い集団の知恵においても、重要なのはプラス面の累積と引き算による個々の間違いのそぎ落としです。
集合知の形成に、多様性、独立性、分散性といった要件と同時に、集約性が必要とされるのはそのためです。
個々の情報を集約して集合知を形成するプロセスにおいては、その過程で玉石混交の情報群の中から価値ある情報だけが自然に生き残るような情報淘汰の仕組みが必要となるでしょう。

この情報淘汰は、Webのネットワーク上ではスロウィッキーも例に挙げているようにGoogleをはじめとする検索エンジンが頻繁に利用されるWeb環境ではおなじみのものです。

情報淘汰の結果を価値あるものとして維持するため、検索エンジンは数日前に話題となったような、検索結果の品質を歪めることにつながる、リンクポピュラリティを高めるためだけに大規模なリンクネットワークを構築するようなSEO対策を行ったサイトにペナルティを科すこともあります。
人工的なリンクネットワークの構築は、先の4つの要件でみてもその1つの要素である独立性を損なうものだといえるでしょう。

■集団極性化

検索エンジン側の徹底したスパム対策が有効に働いている限りは、情報淘汰はうまく機能し、必要な情報を必要なときに得られるというWeb検索のメリットを保たれるでしょう。
しかし、Webのネットワーク上のすべてが「賢い集団」として機能しているかといえば、決してそうとは言えません。
個々の意見の多様性、独立性、分散性が確保されないために、集団が極端な意見や行動を示す現象が見られることも決して少なくはないでしょう。

天邪鬼がいないところでは、話し合いが行われた結果、集団の判断が前よりもひどい内容になることもある。これは「集団極性化」と呼ばれる現象が原因だ。

同上

集団が極端な傾向を見せる場合には、『ウェブ進化論』のヒットに見られるようなスピーディーで大規模な口コミ感染が拡がるようなその影響が良い面に出ることもありますが、一方で「祭り」と呼ばれるような行為に多くのユーザーが加担することで、その影響が悪い面に出てしまうことも少なくはありません。
先の引用でも見たように、集団が多様性や独自性を失うことで極端な傾向を示すのは、暴動や株式バブルといった形でオフラインの世界でも起こりえることであり、Webのネットワークに限ったことではありません。

しかし、Webがこれだけ人々の生活やビジネスに密着するようになったきた今だからこそ、この問題は十分考える必要があるのではないかと思います。

次回は「Webの信頼性」をテーマにこの問題を別の角度から考えてみようと思います。

※参考文献

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コメント

集合知のわかりやすい解説ありがとうございます

遅ればせながら、情報収集しています

Posted by: ありえる : 2007年02月13日 20:04

このブログは非常にわかりやすくかつ学術的で内容が濃い。最近このWEbの「集合知」をアナログで実践した書、客が客を呼ぶ集団感染のスゴイ仕掛けが話題になっているが、非常に群集心理、特に共同体心理、マックスウエーバー的に解説してあり参考になった。非常に興味深いテーマである。

Posted by: 群とは : 2007年02月22日 23:58

コメントありがとうございます。
集合知の活用に関しては、Webの利用シーンが多様化し、社会的にも情報化が進む中で、ますます重要なテーマになってくると思います。
今後も研究を続けて、こちらのブログでも公表できればと思います。

Posted by: ミツエーリンクス : 2007年02月23日 20:13

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