このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年04月26日
価値基準の3つの基本戦略
マーケティングユニット 棚橋
価値基準とは、マイケル・トレーシーとフレッド・ウィアセーマによる、成功する企業が顧客に対する価値を創造する方法のことで、以下の3つが基本戦略として特定されています。
「製品リーダーシップ」は、たえず最新の製品・サービスを提供する価値基準のことで、この戦略をとる企業はイノベーション追求型で、常に新しい製品・サービスで高い価値を提供しつづけることにより競合他社が模倣しにくい状況をつくります。
「卓越したオペレーション」は、生産方法や販売方法の改善を目指すアプローチで、例えば、日本企業であれば、トヨタ生産方式をもつトヨタやセブンイレブンジャパンなどがこの戦略をとる企業と考えられます。
「顧客との親密さ」は、顧客ロイヤルティを築き上げることに焦点をあてた戦略で、高い顧客ロイヤルティにより、顧客との親密さを強化し、販売力を高めるとともに、顧客からのフィードバックを改善に活かすアプローチです。この場合は、顧客のもつ高いロイヤルティ自体が競合他社に対する優位性となり、他社ブランドへの乗換えが生じにくい状況を生み出すことになります。
こうした基本戦略のうち、どれを採用するかを考えるにあたっては、自社のミッション、ビジョンをきちんと定義することが必要であると同時に、自社をとりまく市場における競争環境を把握することも必要でしょう。その際、業界分析や競争状況分析に有効なものには、マイケル・ポーターの5つの競争要因モデル(5F、5 Force Model)があります。
5つの要因とは、業界内の競合他社との競争度合い、買手の交渉力、供給業者の交渉力、新規参入者の脅威、代替品の脅威の5つで、これらの要因の相対的な影響は業界構造やビジネスモデルの変化にともない変わり続けます。こうした変化する市場環境においていかに生き残るかの基本戦略が先にあげた3つの価値基準による戦略となります。
そもそも戦略とは何をするかを決めると同時に、何を行わないかを決めることです。
この場合も、3つの価値基準のうち、どれを選択するかも企業にとって重要な戦略決定となります。1つの基本戦略を選択したら自社の有する資産をそこにフォーカスすることができるかどうかが成功の鍵となるでしょう。
Webマーケティングにおいてもまったく同様です。自社をどの価値基準を基本戦略として選択した企業として見せるか、そう市場に認知させるためにどれだけ自社の価値基準の浸透にコミュニケーションのフォーカスを集中できるかによって、前回(USP(Unique Selling Proposition))も論じたような、強いUSPを持つ企業としての認知の基盤が築けるかどうかが決まります。基本戦略はいうなれば企業のコアを表現するための土台だとすれば、その上に描かれるUSPこそが企業のコアを市場向けに表現したものということになるでしょうか。
もちろん、こうした企業イメージが市場から認められるようになるには時間が必要です。企業はそうした認知を市場から、社会から得て、その価値を認められるために、商品・サービスの提供を行うと同時に、継続的な対話によるリレーションシップの形成に努める必要があるでしょう。そのための1つのツールがWebであり、ますます社会における企業の存在価値が問われる傾向が強まり、市場、顧客との対話によるリレーションシップが生き残りのためにより重要度を増してくる競争環境においてはWebコミュニケーションをいかに効果的に活用できるかは企業の重要な経営課題になってくるでしょう。
こうした重要な意味を持つWebコミュニケーションにおいて、1つのポイントとなるユーザビリティに関して次回は書いてみたいと思います。
※参考書籍
『戦略とは何か』(コーネリアス・A・クルイヴァー、ジョン・A・ピアースⅡ世、東陽経済新報社刊)