このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年04月12日
『企業とは何か』とCSR、コーポレート・ブランド
マーケティングユニット 棚橋
P.F.ドラッカーの『企業とは何か』(ダイヤモンド社刊)を読んでいます。いまから60年近く昔、1946年に書かれた本ですが、ここですでに、ドラッカーが現在、話題のCSR(Corporate Social Responsibility)=企業の社会的責任に通じる視点で、企業をとらえているのがわかります。
ドラッカーはこの本で、GMを分析対象として、社会的組織としての企業の分析を行なっています。その際、ドラッカーは「企業の本質と目的は、経営的な業績や組織の構造ではなく、企業と社会の関係、および企業内の人間との関係にある」とし、以下の3つの側面からの分析を行なっています。
すこし乱暴に要約してしまえば、1番目は個別の組織としての企業内部の分析。2番目と3番目はともに社会の代表的組織としての企業を、前者は企業内部が要求、外部に提供するものが社会の理念や目的とそごをきたさないかという意味での分析だとすれば、後者は産業社会において社会に財を生み出すものとしての企業を分析するものだといえます。特に2番目の視点が現在のCSRの考え方を先取りした視点だといえるのではないでしょうか。また、3番目の視点は、自社の利益をあげるだけでなく、社会の財、価値を生み出す存在として企業をとらえたドラッカーの独自の視点としてあらためて注目すべきことであるように思います。
ドラッカーの『企業とは何か』の根底にあるCSRの源流は、環境への配慮、法の遵守といったマイナス面の削減といった色合いが強い現在のCSRと比較して、より根本的な視点で企業の社会的責任を論じています。
この点に関しては、イー・アソシエイツ社の椎名社長の「責任としてのCSR」というとらえ方が参考になります。椎名社長は、「責任」と「義務」を分けることでCSRについて考察しておられます。最も印象的なのは、「企業にとってのCSR活動の第一の目標は、自社が社会から責任を託されるに値する企業であることを社会に理解してもらうこと、ということになります」という言葉です。
これはよくよく考えてみれば、コーポレート・ブランドの構築に他なりません。ブランド戦略においても、ブランド・ポジショニングで「ブランドの約束」を明確にすることが重要ですが、これはドラッカーが企業の分析を「社会的な信条と約束の実現に寄与」するかどうかという視点で行なっている点や、椎名社長のいう「責任」に通じるのではないかと思います。
「約束」は「義務」ではなく「責任」を負うものです。
WebサイトにおけるCSR活動も、単にCSRレポートをWebコンテンツ化するという消極的な意味だけではなく、より積極的にマーケティング、ブランディングという意味でとらえることが必要だと思います。マーケティングの側面でとらえれば、企業はWebマーケティング・コミュニケーションにより、社会、市場に「約束」を行うことで「責任」を負うという形でCSRを考えることができます。その「約束」を市場における事業活動において顧客一人ひとりに対して「責任」を果たしていくことの積み重ねによって、顧客や社会に必要とされる企業となります。その際、忘れてはならないのは、実際の事業活動同様に、コミュニケーションも非常に重要であるということだと思います。
コーポレート・コミュニケーションによって、社会に対して「約束」すること。マーケティング・コミュニケーションというと、つい自社の事業や自社製品の理解を高めることだけと考えがちですが、CSRが注目される現在の市場環境においては、いかに自社が社会にとって価値あるもの、責任を果たすものなのかを伝え、理解してもらうことも非常に重要なことだと思います。