このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2007年04月17日
コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問)
マーケティングユニット 棚橋
前々回のエントリーでは、顧客やユーザーの日常世界における行動や思考を理解するための手法としての「フィールドワーク、エスノグラフィ」を紹介しました。
私たちの日常の行動は、私たち自身にとってはごくごく自然なものであってもコンテキスト(自分たちの置かれている状況)を共有しない他者からみると非常に奇異なものに見える可能性があります。フィールドワークという行為においては、こうした他者の行動を彼らが置かれたコンテキストとともに調査者が観察し体験することで、他者の行動や思考に対する理解を得るという方法です。
フィールドワークは基礎的研究
携帯電話やソフトウェアなどの商品開発やWebサイトの設計においても用いられる、ISO13407:Human-centered design processes for interactive systems(インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)における上流工程のプロセスである「利用の状況の把握と明示」という段階においても、このフィールドワークに該当する作業が行われることがあります。
例えば、intelでは中国という新規市場の開拓のために、中国の文化や生活を知るためのフィールドワーク、エスノグラフィ的な調査を基礎的研究を行い、中国向けの商品開発に役立てていることが知られています。(参照:intel:People and Practices Research Group)
実際に商品を利用する人々の生活や考え方を調査するフィールドワークなどの研究は、商品そのもののユーザビリティを向上するためにも、商品を使ってもらう人にまず商品のことを知ってもらい購入してもらうためのマーケティング・コミュニケーションの設計においても、非常に多くの示唆を与えてくれる発見をもたらすものです。
コンテキスチュアル・インクワイアリー
システム開発のなかで用いられるフィールドワークの作業として有名なものに、コンテキスチュアル・インクワイアリー(文脈的質問)という手法があります。この手法はその名のとおり、顧客/ユーザーのコンテキストのなかに入り込んで質問を行っていく調査法です。
コンテキスチュアル・インクワイアリーの代表的な方法としては、ヒュー・ベイヤーとカレン・ホルツブラットが1997年の著書"Contextual Design"のなかで提案した「師匠と弟子モデル(master/apprentice model)」があります。
師匠と弟子モデルのコンテキスチュアル・インクワイアリーでは、顧客/ユーザーを理解するために、まず仕事をしている人に普段の現場でいつものように仕事をしてもらいながら、弟子となったインタビューアが調査対象者を師匠として、師匠の仕事の仕方を学びます。師匠は仕事をしながら説明し、弟子は疑問があればその都度質問をします。それにより師匠自身さえ明瞭には認識していない仕事に関する知識を明確にしながら、仕事のやり方の構造に関する情報を集めていきます。
この方法の特徴は、観察とインタビューによって顧客/ユーザーの働き方を発見できる点、そして、その発見をもとに顧客/ユーザーの働き方に最適なデザイン方法を見つけ出せる点にあるといわれます。
マーケティング・コミュニケーションを目的としたWebサイトのデザインや、オンラインバンキングやECなどのWeb上でのサービス提供を目的としたサイトのデザインを行う場合でも、また、最近話題になっているデジタルサイネージ技術を使って店舗などで広告展開を行う場合でも、顧客/ユーザーの働き方に関する知識を明確にし、仕事の構造を把握できているかどうかによって、提供できるユーザビリティやコミュニケーションの質も大きく変わってくるでしょう。
コンテキスチュアル・インクワイアリーによって得られた情報は、コンテクスチュアル・デザインと呼ばれるワークモデルを使った分析法によって、顧客/ユーザーに共通する仕事のパターンを抽出します。
コンテクスチュアル・デザイン、ワークモデルに関しては、また次回にご紹介させていただこうと思います。