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このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。

2006年09月26日

ネット上の口コミはいかにして発生するか?

マーケティングユニット 棚橋

現在、Webマーケティングの分野では、ブログやSNSを媒介としたユーザー間の口コミが注目されているようです。

エデルマン・ジャパン株式会社と株式会社テクノラティジャパンが共同で、日本のブロガー213人を対象に実施した「第1回 日本人ブロガーに関するPR調査」によれば、「84.5%ものブロガーが企業(業界情報や、サービス、製品を含む)についてブログを書いたことがある」という調査結果が出ています。

前回の「ロングテールをWebサイトのアクセスログから検証する」ではWebサイトのアクセスログデータが示すベキ分布傾向を考察するとともに、ベキ分布が実は一般的にもみられる傾向であることから、従来のマス・マーケティングにおいても、テレビのようなマスメディアと一般人の間に広がる口コミの関係に同じようなベキ分布があったのではないかと推測しました。
今回はさらにマスメディアを基点とした口コミとネット上での口コミの類似点と相違点を考察しながら、ユーザーの口コミを視野にいれたWebマーケティングについて考えてみようと思います。

■ブログを書こうと思ったが、肝心の資料がネット上にない!

CNET Japanでの中島聡氏のブログ「中島聡・ネット時代のデジタルライフスタイル」に、東京ゲームショーでのソニーの久夛良木氏の基調講演についてブログに書こうとしたら、肝心の基調講演がネット上に見つからず書くのを断念したという体験談が紹介されていました。

当然、ジョブズのプレゼンも岩田氏のプレゼンも見ただろう久夛良木氏が、それに対抗して「ソニーのリビング・ルーム戦略」をどう語るのか、私なりの視点で解説を加えてみたかったのである。

ところがである、肝心の基調講演がネットで見つからないのである(ひょっとしたらどこかに存在するのかも知れないが、私が探した限りでは無い)。これでは何も書けない。

中島聡・ネット時代のデジタルライフスタイル:ソニーのマーケティング部門の人に提案

確かに、中島氏が例にあげている9月14日に行われた任天堂の岩田社長によるWiiのPreviewには、数多くのブロガーがネット上にあがった資料を参照しつつ、記事を書いているのが目立ちました。私などはブロガーの記事を通してWiiの発表を知ったくらいです。
(参考:テクノラティによる「Wii 岩田社長」での検索結果

■ネットでの公開情報がないと、ブロガーは記事を書きづらい

中島氏が、

久夛良木氏の講演を見たからと言って、私がそれについて書くとは必ずしも保証しないが(ちなみに、今回は明らかに「書きたい」と思ってビデオを探したが、これは例外である)、少なくともネットで公開していなくては同じ土俵に立てない。

中島聡・ネット時代のデジタルライフスタイル:ソニーのマーケティング部門の人に提案

と書いていらっしゃるのと同様に、ネット上に公開されていないものに対してブロガーが記事を書くことはむずかしいと思います。
すでに発売されている製品であれば、製品情報が掲載されたページを参照して記事を書くことは可能ですが、発売前の製品発表だったり、イベントでの基調講演などであれば、その内容自体をブロガーそれぞれが記事で説明しなくてはならなくなり、記事を書くためのハードルは高くなります。
先の「第1回 日本人ブロガーに関するPR調査」の結果にもあったように、個人のブロガーが企業やその製品に関する評価や感想などを記事にすることは少なくはありません。その際、記事の対象となるものの情報がネット上に存在しないとなると、記事を書くブロガーも書きづらいですし、仮に記事にした場合でもそれを読む人が何について書かれた記事なのかを具体的に想像しづらい状況になるでしょう。

■リアルとネットでの口コミ発生のタイミング

現在の消費行動プロセスを示すモデルにAISAS(Attention~Interest~Search~Action~Share)がありますが、ここでは口コミが生まれる段階は最後のShareに置かれています。商品を購入、利用するActionや、先の中島氏の例のようにイベントの基調講演を聞くというActionのあとに口コミが発生するわけです。そして、中島氏の指摘のとおり、ブロガーは記事を書こうとする前に、記事で参照するための1次情報をネット上で探す=Searchするわけです。

実はこのプロセスを、これまでのマスメディアを中心としたマスコミュニケーションにおける口コミの発生と比べると意外なことがわかります。
Attention~Interestによって、ある商品を認知し、興味をもつところまでは同じですが、今のようにネットがない時代であれば、その時点で、知り合いに「○○って知ってる?」などと聞いたのではないかと思います。今のSearchと同じプロセスですね。ネット上でのSearchは自己完結していますが、リアルの場で誰かにある製品について質問する場合、その情報探索自体が口コミとして機能します。つまり、口コミの発生は実はマスマーケティングの時代のほうが早かったのではないかと考えられます。

■同じ時間に同じ番組を見ていること

しかし、マスメディアを基点とした口コミの場合、多くの人が同じ時間に同じ番組を見ていることが前提になるのではないかと思います。昔のように学校や職場で、前の日に見たテレビ番組のことが自然と話題にのぼった時代であれば、たまたまCMでみた商品の口コミが発生することは十分考えられたでしょう。
ネットの口コミの条件として、参照できる1次データがネット上に存在することと同様に、話題の共有が可能な状況が、多くの人の頭の中に共有されていることが口コミ発生をうながす条件だったのでしょう。

ただ、残念ながら、テレビの視聴率は年々下降している傾向にあります。
社会実情データ図録」にデータが掲載されている「NHK朝の連続テレビ小説の年度平均視聴率の推移」をみても、1983年度の「おしん」の52.6%をピークに長期低落傾向が見受けられ、2004年、2005年連続で10%台と低い数値となっています。この傾向はテレビ番組全般に見られるのではないでしょうか。
口コミ発生の前提である「同じ時間に同じ番組を見ていること」は、地上放送以外のチャンネルの増加やYouTubeなどのネット動画サービスの台頭、テレビ以外に費やす時間の増加など、様々な要因が重なって、ますます実現しにくくなっているのではないかと思います。

■Employee Generated Media、再び

ネット上の口コミが注目を集めているのは、このようなテレビを通じた口コミの発生に衰えがあることも影響しているのでしょう。
しかし、いくらブログやSNSでユーザーが自主的に企業やその製品のことを取り上げるようになったからといって、ただ待っているだけではネット上の口コミは発生しません。

新製品の発売が注目を集めるような企業であれば、先の中島氏がソニーに対して提案していたように、新商品の発表イベントにあわせて、その模様をネット上でも発信するような工夫が必要でしょう。
それはマスコミに対してプレスリリースを配信したり、プレスキットを配ったりするのと同じ意味をもつのではないかと思います。プロの記者だってプレスリリースやプレスキットを元に記事を書いたりするのですから、ブロガーが自分のブログに記事を書く場合でも、1次情報を必要とするのはある意味当然のことでしょう。ネット上での口コミを狙うのであれば、そうした口コミ発生のための舞台設計が事前に必要になってくるのではないかと思います。

また、口コミ発生の基点は何も新商品発表のようなイベントとは限らないでしょう。以前、従業員や経営者がブログなどを用いて情報を積極的に発信していくEmployee Generated Media(「1.信頼を得るために」「2.メリットとデメリット」)について考えてみましたが、こうした企業の生の声を伝える情報発信も、口コミの基点になりえるでしょう。
これはブロガー同士がお互いに相手の記事を引用しあって、互いの意見を交換するイメージに近いでしょうか? 先の例のようにイベントの模様や配布資料などをネット上で公開したりするのも、Employee Generated Mediaの1つとみることも可能です。

いずれにせよ、「ねぇ、あれ知ってる?」という形で口コミが発生するためには、まずは企業側で口コミの基点となる情報を発信することが前提条件ではないかと思います。
1つの情報の発信が小さなさざ波を起こし、その積み重ねが大きな波に発展していく。それがWebでのマーケティングの1つの醍醐味です。ぜひ、貴社でも口コミの大波を起こす舞台の準備を進めてみてはいかがでしょうか。

コメント

はじめまして。
確かに宣伝媒体がTVだけという時代から移ってきていますよね。
これからの企業はwebをうまく使っていくところが独自の広告ルートを見つけ、利用し、伸びていくのでしょうね。そういった意味では大企業でなくてもチャンスがある時代になったのですね。

Posted by: 三ツ邑@OCL : 2006年09月27日 18:10

コメントありがとうございます。
参考になるご意見でした。

「大企業でなくてもチャンスがある時代」。
確かにそうですね。少なくともコミュニケーションという意味では、スタート地点がフラット化しているように感じます。
もちろん、スタートはフラットな状態でも、そこからの行動によって結果は大きく異なるものだと思われますが。

では、今後ともよろしくお願いいたします。

Posted by: ミツエーリンクス : 2006年09月29日 10:06

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