このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年09月23日
アートの力
マーケティングユニット 棚橋
いま、あるアーティスト関連のWebサイトのアクセスログ解析のお手伝いをさせていただいているのですが、解析結果の数字を見てびっくりしています。
とにかく1訪問者あたりの閲覧ページ数が非常に多い。一般的な企業サイトなら3~10ページくらいに落ち着くのですが、そのサイトの数字はそれとは比べ物にならないほど多いのです。機密保持上、具体的な数字はここでは紹介できませんが、正直、これだけの数字は見たことがありません。
同じ商品購入目的のWebサイトと比較しても、1訪問あたりの閲覧ページ数は倍以上あります。
Flashを利用していることで、アクセスログがカウント不可能な部分も含まれることを考えると、その数字は驚嘆に値します。
かといって、そのサイトのユーザビリティがよいかというとそうでもなく、ユーザー導線設計にも課題がないわけではありません。
そのサイトでの売上金額を聞いたときもびっくりしましたが、なるほど、これだけ熱心に見られていれば、それだけ売れても当然かもと思いました。
こうした数字(アクセス数、売上額)を出せる要因は、もちろん、こまめに新しい商品を出したり、メールマガジンでも丁寧にユーザーとコミュニケーションをとっていたりと、きちんと努力をしている結果もありますし、商品そのものの魅力もあるでしょう。
ただ、もうひとつ忘れてはいけない要因が、そのサイトのビジュアルによるおもてなし感です。
とにかく、見ていて楽しい商品写真が満載で気がつくと、何ページも見てしまっていたりします。
並のレベルのデザインではなかなかこうはいきません。
質の高いオリジナル感あふれるクリエイティビティが展開されてこそ、ビジュアルで数字がつくれるんだろうなと思います。
あらためてアートの力を実感せざるを得ません。
通常のWebサイトでそこまで望むのはむずかしいとしても、やはり、ビジュアルデザインを軽視しては、ユーザーがサイトを訪れる楽しみも半減させてしまうのは確かでしょう。
よくトップページやナビゲーションメニューをFlashなどを用いて見せたりするWebサイトを見かけますが、ビジュアルデザインの力でユーザーを楽しませ、気がつくといろんなページを見てしまったという状況をつくるには、むしろ、個々のコンテンツごとにどれだけユーザーを楽しませるビジュアルを配置できるかという方が重要ではないかと思います。
以前、「マンガの国のWebデザイン」でも少し触れましたが、マンガや雑誌が西欧とは比較にならないくらいビジュアル中心になっている日本においては、ビジュアルを単なる添えもの的に扱うことはできません。
ビジュアルがテキスト以上にユーザーの心をつかむことはよくあることです。
マーケティングの分野でも、『経験価値マーケティング―消費者が「何か」を感じるプラスαの魅力』(ダイヤモンド社刊)の著者バーンド・H・シュミットの研究に代表される経験価値というコンセプトにより、従来の顧客を論理的な主体と捉え、機能&ベネフィットを中心に商品理解を促す考え方だけでなく、顧客を気ままで感情的な生き物と捉えた上で心地よさや刺激、ステイタス、安心感といったより感性的な部分に直接訴えかける方法の必要性も論じられるようになっており、これはそもそも顧客の感性に訴えかけることを重視してきた化粧品やファッションなどの業界だけでなく、以前は機能重視のマーケティング・コミュニケーションを行っていた携帯電話や家電などにおいてもデザイン性を訴えるマーケティング・コミュニケーションが増えてきていることを思い起こしていただければ、その重要性はよくおわかりだと思います。
また、こうしたユーザーの経験価値、感覚を重視したマーケティング手法は、消費財のマーケティングにとどまらず、最近のIBMやマイクロソフトの広告展開を見てもわかるとおり、B2B市場においてもまったく無縁ではありません。
日本のマンガやアニメという独自のクリエイティブな才能はいまや世界的にも高い評価を受けています。
Webデザインにおいても近い将来、アメリカ的なWebデザインに物足りない市場の要請によって日本のWebデザインは世界レベルで見ても最高にクリエイティブで、アートの力がみなぎるものになることでしょう。
日本のWebデザイナーはそれだけのことが可能な日本という土壌に住み、才能を持っているのですから。
あとはそうした才能をいかに伸ばしてあげられるマネジメントができる環境がつくれるかどうかではないでしょうか?
さて、次回は問題発見が問題解決のカギと題してお送りします。