このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年05月10日
顧客育成のシナリオ
マーケティングユニット 棚橋
前回(ワン・トゥ・ワン・マーケティング ~顧客を知る~)、前々回(カスタマー・リレーションシップのマネジメント(CRM))と、ワン・トゥ・ワン・マーケティングについて取り上げました。
その中でも書きましたが、ワン・トゥ・ワン・マーケティングにおいて重要なのは、顧客を個々に識別した上で、それぞれのLTV=顧客生涯価値を最大限に高められるよう、顧客の育成を図ることです。
それにはまず、自社にとって、どのように顧客が育っていくことが自社の価値を高め、財務的な成果を得ることができるのかをしっかりと認識していることが必要です。
カスタマー・ロイヤルティの向上、顧客満足度(CS)の向上ということがよく言われますが、売上につながらない部分でいくらロイヤルティや満足度を高めても仕方ありません。
もちろん、短期的な売上ばかりを重視して中・長期的な意味での顧客の育成をおろそかにしてはいけません。しかし、その場合でもあくまで顧客の育成を考えるに際しては、実際の売上につながる商品・サービスの提供を顧客の育成を行う中でどのようなタイミングでどのような商品・サービスを提供すれば、ロイヤルティや満足度の向上につながるかを、事前に設計しておくことがワン・トゥ・ワン・マーケティングを成功するキーとなるでしょう。
では、どのような形で顧客育成のシナリオを描けばよいのでしょう。
顧客育成のシナリオを描くためには、まず最初に、以下のような現状把握、分析を行なっておくことが必要となります。
上記のような現状把握・分析を行うためには、シックスシグマの手法による3C分析が有効です(参考:インターネット戦略の構築法「現状の把握」)。
顧客生涯価値を高めるためにはどんなセグメントの顧客をターゲットにして、リレーションシップ・マーケティングを行うのがよいか? そのためにはマーケティング・プロセスのどの部分を改善、強化して競合他社との差別化、顧客への付加価値を高めるのか? また、顧客を育成し、ロイヤルティを高めるプロセスの中でどのタイミングでどんなマーケティング・コミュニケーションを図るのが有効なのか? こうした計画をたてるためには、KKD(経験、勘、度胸)にたよったやり方ではうまくいきません。きちんと科学的な視線で市場を眺めて現状を把握した上で、顧客育成のためのロジックを構築することが、顧客育成シナリオを描く大前提となります。
また、先に「自社の売上方程式を作成する」と書きましたが、売上方程式は基本的には、
売上=顧客数×商品単価×顧客の一回購入個数×顧客の購入頻度
という形で表すことができます。
この方程式をさらに自社にあった形で具体的なものとすることが、効果的なマーケティング計画を立てる上では重要です。
例えば、
顧客数の増加を目指すなら、Webサイト経由での問合せを増やすことが有効なのか、セミナーやイベントなどの開催により見込み客を獲得するのが有効なのか、といった形で、自社の営業活動、マーケティング活動の現状を測定、分析することが、求める答えを得るための近道だったりします。
Webからの問合せから獲得した見込み客の受注率が高いのなら、いかにWeb経由の問合せを増やすかが売上を増やすための重要な課題といえるでしょう。その場合であれば、いつどんなユーザーが、どこからサイトを訪れ、どんなコンテンツを見て、問合せに至っているかをアクセスログデータの分析により把握することも可能です。そうした科学的な測定、分析によって、顧客のきまぐれな意思ではなく、事実としての行動の足跡を把握することで、生きた顧客育成のシナリオを作成するためのヒントを得ることができるのです。
売上が上がらないと嘆く前に、自分たちが何を行っているか、競合他社が何を行っているか、顧客がどんな行動をしているかを、科学的な視線で見てみることが必要でしょう。ただ、売上を増やすために闇雲に努力するのではなく、現状をよく分析して、明確なマーケティング・ロジックを元に行動することが必要です。
分析とは、その中に「分」という文字が含まれるとおり、分けることによって分かることです。現状のマーケティングの現場ではまだまだKKD(経験、勘、度胸)依存が蔓延しています。なんとなく自分の印象(意見)だけで結論を急ぐのではなく、きちんと現状を分けて分析することも重要です。そもそも意見=事実+仮説です。他人を説得しようとする際でも、何が「事実」で、どの部分が自分なりの「仮説」かを明確にした上で「意見」を述べることが必要でしょう。
さて、次回は、分析の1つの方法として、特性要因図を取り上げてみたいと思います。