このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年05月06日
カスタマー・リレーションシップのマネジメント(CRM)
マーケティングユニット 棚橋
カスタマー・リレーションシップ・マネジメント、いわゆるCRM。
この言葉が一時の勢いを失って、しばらく経ちます。
しかし、顧客関係性をマネジメントすることの重要性は、以前より薄れるどころか、さらにその重要度を増してきているのが現状です。
ただ、それが以前のようなITを中心にした関係性の構築、管理から、より実践的な現場レベルも含めたマネジメントへと移行してきているといえるでしょう。
この過程で、ITを中心としたCRMを導入した企業はそれに幻滅し、顧客関係性の構築・維持を(一時的にであれ)断念したかもしれません。一方で、いくつかの企業は、LTV(Lifetime Value)=顧客生涯価値の向上というCRMの目的を見失うことなく、顧客を維持・育成する仕組みを構築することに成功しているのではないでしょうか。
今回はこのCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)について、すこし考えてみたいと思います。
さて、前回取り上げたワン・トゥ・ワン・マーケティングとCRMは混同されることが多いですが、そもそも顧客の扱いに関するスタンスが異なる点が意外と見過ごされているのではないかと思います。
まず、CTI(Computer Telephony Integration)、SFA(Sales Force Automation)、FSP(Frequent Shopper Program)などのITを中心としたこれまで主流となっているCRMは、主に営業進捗中の顧客を対象にするものだといえます。
いわゆるCRMツールには、カタログ通販などでも使われることの多い、Recency(最終購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の3つを評価項目として顧客の分析を行なうRFM分析が組み込まれていたりもします。しかし、RFM分析そのものが顧客の評価をある任意の時期をスライスした形の分析であるため、顧客のもつポテンシャルを過大評価(逆に過小評価)してしまう可能性をもつという問題点を持っています。そのため、この手法は基本的に、プロセスにおいては顧客の識別を行いながらも、最終的な分析においては顧客を個別に評価するのではなく、「優良顧客」「一般顧客」「潜在顧客」などのカテゴリーにおいて評価するものとなります。それゆえにこの分析からはそもそも大きなポテンシャルを実は持っていながらも、たまたま分析を行なった時点では購入しなかったりした重要な顧客をとらえられないということが起こりえます。というよりも、この分析自体が様々な施策を行った結果のパフォーマンスを評価するものであり、将来的な予測や顧客育成のために用いるものではないという点に誤解があるというべきでしょう。
つまり、CRMの分析手法は、実行した施策の評価を行なう上では有効であっても、次にどんな手をうてばいいのかを考えるためのものではないということです。言うまでもなく、売上を向上するためには、過去にどんな人が買ったかでを知ることではなく、未来に誰が買ってくれるように仕向けられるかが重要です。しかし、残念ながらこれまでのCRMの発想ではそのためのヒントを得ることはむずかしいでしょう。
一方で、ワン・トゥ・ワン・マーケティングでは、そもそもの発想においても個々の顧客との関係性をいかに深め、よりロイヤルティの高い、自社の売上に貢献する顧客へと維持・育成を行なうことが中心的な課題となります。この場合、顧客の識別は目的であるというより、ワン・トゥ・ワン・マーケティングを行なう上での前提となります。普段、私たちが何気なく使ってしまっている「優良顧客」「既存顧客」「見込み客」といった定義があいまいで不明確な顧客カテゴリーによって顧客の評価を行なうのではなく、個々の顧客がこれまで何を買ってくれ、どのような傾向を持っているのかを評価します。個々の顧客に応じたクロスセル・アップセルの提案を行なったり、段階をおった顧客の育成を行なうことで、顧客それぞれのLTV=顧客生涯価値を高めることがワン・トゥ・ワン・マーケティングの目的となります。
ただ、ワン・トゥ・ワン・マーケティングといっても、すべての施策を個々の顧客向けに設計しなくてはならないわけではありません。逆に言えば、マイページを作ればワン・トゥ・ワン・マーケティングであるわけでもありません。Webでのコミュニケーションにおいても、特に顧客を識別した形でのコミュニケーションが必須であるわけではありません。メールマガジンなどはユーザーごとにカスタマイズしていながら、実際の営業活動やサービス提供時には顧客に見合った提案ができないという企業も意外と多いと思いますが、それでは本末転倒でしょう。
重要なことは、カスタマイズが行なわれているかということではなく、顧客育成のシナリオを明確に持っているかどうかです。
シナリオに沿った個別の顧客対応さえできていれば、Webコミュニケーション、商品、営業資料などを含めて個別にカスタマイズされたものを用意する必要はないかもしれません。必要なのは、ツールのカスタマイズではなく、顧客のロイヤルティを高め、クロスセル・アップセルを促進したり、継続的な購入を促すためのシナリオを設計し実行する仕組みをつくりあげることでしょう。そのシナリオの中にきちんと定義づけられてさえいれば、Webコミュニケーション自体はある一定のニーズをもった顧客層向けにする形でも、顧客のニーズを喚起するには十分機能するものです。
次回は、この話題をもう少し深掘りして、顧客育成シナリオについて書いてみたいと思います。