このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2006年10月05日
Webユーザビリティと変化するユーザーの利用状況
マーケティングユニット 棚橋
最近、Webユーザビリティについて、あらためて考えていますが、数年前と比べてWebのユーザビリティの基準がすこし変わってきているのではないかと感じています。
変わってきていると感じるのは、その定義ではなく、定義に基づく個別の判断基準です。
■ISO9241-11によるユーザビリティの定義
1998年に成立したISO9241-11によれば、ユーザビリティは以下のように定義されています。
特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効性、効率、ユーザの満足度の度合い。
ISO9241-11によるユーザビリティの定義
また、3つの指標は次のように記されています。
- 有効性 : ユーザが指定された目標を達成する上での正確さ、および完全さ。
- 効率 : ユーザが目標を達成する際に、正確さと完全性に費やした資源。
- 満足度 : 製品を使用する際の、不快感のなさ、及び肯定的な態度。
この3つの指標は、一般的に見てどうなのか?と検討するのではなく、「特定の利用状況」「特定のユーザ」「指定された目標」を設定した上で検討すべきものです。あらゆる用途であらゆるユーザーにあらゆる状況で利用可能な「ある製品」を想定するのは非現実的だからです。
携帯電話やゲーム機などを含むあらゆるWebブラウザでの利用を想定し、かつ、高齢者から子供まで利用できるような、ユニバーサルなデザインを構想する場合でも、想定される利用状況やユーザーを把握しておくことが大前提となります。その上でユーザー側で自分が見やすいよう、利用しやすいよう、カスタマイズが可能な形(例えば、ブラウザでの文字サイズの拡大や、FIREFOXの拡張機能を利用したカスタマイズなど)で設計~実装することが必要でしょう。
それでも、やはりコンテンツそのものが万人にとって利用の有効性があるということはほとんどないと思いますので、「特定の利用状況」「特定のユーザ」「指定された目標」をユーザビリティを考える上での前提条件としてきちんととらえることは重要なことでしょう。
■アウトプット要求とサービス要求
ここですこし視点を変えて、顧客の製品に対するアウトプット要求とサービス要求という視点を導入してみます。
- アウトプット要求 : 顧客視点で最終製品あるいはサービスとして受け取るものそのもの
- サービス要求 : 顧客視点で最終製品あるいはサービスを受け取るまでの間に、どのような扱いを受け、どのように対応されたかというサービスのプロセスに関わるもの
このような視点を導入すると、ユーザビリティにおける3つの指標のうち、有効性はアウトプット要求に、効率と満足度はサービス要求に対応するものではないかと考えられます。
「特定のユーザ」が「特定の利用状況」で「指定された目標を達成するために」サイトを利用する際、目標が達成される度合いである有効性が低ければ、効率がよく、見た目や雰囲気などの満足度が高くても、ユーザビリティ的にはあまり評価されません。つまり、利用価値がなければ(=アウトプット要求を満たせなければ)、ターゲットとなるユーザーに使われることはないということです。
こうした点を踏まえると、一般の企業サイトにおけるユーザビリティを考える際には、Webサイトの使い勝手以上に、コンテンツそのものがもつ重要性、そして、情報提供量と更新頻度によるユーザーが感じる価値といった面により配慮を行う必要があるのではないかと思います。
■広義のWebユーザビリティ
株式会社ホットリンクが2006年9月4日に発表した「企業サイトに対する消費者の書き込み意識調査」によれば、「どのような企業サイトであればより信用できるか?」という問いに対する回答として以下のような傾向が見られました。
●どのような企業サイトであればより信用できるか?-「情報量が多いサイト」77.7%、「更新頻度が高いサイト」69.9%
どのような企業サイトであればより信用できるかを質問したところ、「情報量が多いサイト」、「更新頻度が高いサイト」との回答が多かった。ついで、「製品・サービスの利用者の意見(口コミ)が載っている」(64.1%)との回答であった。
Googleなど検索サービスやサイボウズなどのグループウェアなどのツールのような機能提供型のものと違い、多くの企業サイトは情報提供型であり、ステークホルダーへの情報提供およびそれに伴う双方向のコミュニケーションがサイトの目的であり、ユーザーへの価値提供である場合が多いでしょう。
その意味で、先のユーザビリティの3つの指標を振り返ってみると、特に「有効性」という面で企業サイトにおけるコンテンツそのものや、情報量、更新頻度の高さが重要な意味を持ってくるのではないかと思います。
Webユーザビリティといえば、これまで機能面を重視した議論が中心となる傾向がありましたが、広義のWebユーザビリティという面では、コンテンツそのものや、情報量、更新頻度の高さを含めて考えることが必要なのではないかと思います。
■Web2.0時代におけるユーザーの利用状況の変化
また、もう1つWebユーザビリティを考える上で、頭を切り替えなくてはいけないなと感じるのは、Web2.0と呼ばれる時代を向かってユーザーのWebの利用状況が変わってきている点です。
多くのユーザーがBlogやSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を利用していますし、Webサイトを訪れることなくRSSリーダーで情報の閲覧を行っているユーザーもいます。情報の収集も検索サイトにだけ頼るのではなく、ソーシャルブックマークサービス、ソーシャルニュースサイト、知人のBlogやSNSを通じて、これまでより多くの情報を効率的に収集し、Blogに記事を書くなどという形で再利用しています。
また、閲覧する環境もタブ型のWebブラウザを利用したり、FIREFOXなど、様々な拡張機能を利用できるものを使ったり、あるいは携帯電話などモバイル機器での閲覧も行われています。
こうしたユーザーの利用状況の変化は、企業サイトなどを含むWebサイトのユーザビリティを考える上でも変化を要求しています。
例えば、RSSリーダーを使って情報の収集を行っているユーザーにとっては、やはりRSSを配信しているサイトのほうが「効率」の面でユーザビリティが高いといえるでしょうし、ソーシャルブックマークサービスを利用しているユーザーにとっては、1つの情報に対して1つの決まったURLが割り当てられるパーマリンクがなくてはブックマークすることができません。
また、ユーザー間での情報の共有が積極的に行われるようになってきていることを考えると、ユーザーの情報共有をむずかしくしてしまうようなサイトのつくり(例えば、パーマリンクがない、会員のみにしか閲覧できないコンテンツ、1ページに複数の記事が含まれているため、他のユーザーの紹介する際にどの記事という特定がしづらい、等)であることもユーザビリティを損なうものといえるかもしれません。
Web2.0とは何かという問いが発せられますが、一言でいうなら、ユーザーのインターネット、Webの利用の仕方が変わってきたことだといえると思います。利用の仕方はその内容だけでなく、量的な変化もともなうものです。
こうした状況の中、「特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際」という前提条件をもつWebユーザビリティに関しても、あらためて考え直してみるのにちょうどよい時期なのかもしれません。