このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年08月09日
効率化 その目的と手段
マーケティングユニット 棚橋
ビジネスにおいて誤解されがちなキーワードの1つに効率化があります。
例えば、効率化の1つとしてのコスト削減。本来的にはコスト削減は、ポートフォリオ・マトリックス(あるいは「成長/市場シェア・マトリクス」)における「金の成る木」(場合によっては「負け犬」も含む)の利益率の向上などを目的として行う手段の1つです。
しかし、よくありがちなことで、手段がいつの間にか目的となってしまい、コスト削減だけが一人歩きしてしまい、本来なら拡大/育成の位置づけにある「スター」になる可能性のある「問題児」の商品・サービスが必要とするコストまでが削減されてしまい、みすみす機会を失うということも少なくありません。
こうしたケースのみならず、効率化という業務命令は時に現場での誤解を招きがちで、正しく目的(例えば、効率化によって利益率と売上額の双方の向上を実現など)を伝えなければ、単に効率化の対象となる人件費コストや仕入れコストなどの数字だけが小さくすることだけが目的となってしまい、結果、売上額まで下がった、顧客を失ったということにもなりかねません。
こうしたことはWebマーケティングにおける効率化にも言えることです。
時々、耳にするWebサイトのROI(投資対効果)についての議論にもそうした傾向が見受けられます。
もちろん、ROI的な指標をもつことはマネジメントの上で重要なのですが、問題はROIの測り方や分析の仕方が、全体的な戦略を捉えた上で行っているのではなく、個別の施策に関するROIを議論する傾向が見受けられる点です。
下図は、Webサイトにおける成長曲線とイノベーター理論との関係性を示したものです。
この図が示すのは、Webサイトの成長(例えば訪問者数)に応じて訪れるユーザー層は大きく異なるということです。
訪問者数が少ないWebサイトのアクセスログを解析してみると、実際に来ているのは、自社の社員と競合他社だけということがよくあります。
これはまさに「イノベーター」といえるユーザーだけが来ている状態。もうすこし訪問者数が増えてくると、ある意味、物好きというか新しいもの好きな「オピニオンリーダー」層のユーザーが訪れるようになります。
イノベーター理論でよく言われるように、この「オピニオンリーダー」層をいかに掴み、いわゆる「マジョリティ」層の橋渡し的な役割を担ってもらえるようにするかが鍵となります。
ただし、「オピニオンリーダー」層と「マジョリティ」層はその志向性の違いから、求めるニーズも異なります。
ですのでマーケティングにおいても、市場浸透度の違いで「オピニオンリーダー」層を攻める段階と「マジョリティ」層を攻める段階では、コミュニケーション内容も戦略的に変えていくことが通常です。
Webサイトの成長、改善プロセスを考える上でも同じことが言えます。
「オピニオンリーダー」層をWebサイトのメインターゲットとして、訪問者数(新規ユーザー/リピートユーザー)を増やすためのコンテンツ戦略と、「マジョリティ」層を獲得していく段階でのコンテンツ戦略では大きく異なりますし、また、最初に「オピニオンリーダー」層による信頼をある程度、築けていなければ、「マジョリティ」層を獲得することはほぼ不可能です。
ようするに、Webサイトによってビジネス機会の増大を達成するためには、現在および将来においてターゲットとする主要顧客層を明確にした上で適切な戦略を策定、アクションプランとしてのスコープを明確にした上で施策実行を行っていく必要があるということです。
さて、このことを理解していただければ、なぜWebサイトのROIを議論するためには全体的な戦略を捉えた上で行わなければいけないかがおわかりなるでしょう。
なぜなら「オピニオンリーダー」層の獲得を目的としている段階と、「マジョリティ」層の獲得を目的としている段階では、投資(=investment)のほうは大きく変わらなくても効果(=return)のほうは大きく異なる可能性をもつからです。
一般的にみて「オピニオンリーダー」層から得られるビジネス的リターンよりも「マジョリティ」層から得られるビジネス的リターンのほうが大きく、利益率が高いのはある意味当然ですし、それがあるからこそ、企業は「マジョリティ」層を目指して成長する価値があります。
そして、この「マジョリティ」層を獲得するためには、まず「オピニオンリーダー」層からの評価を獲得することが必須だとしたら、短期的なポイントにおいてのROIをあまり議論しすぎるのは、先の効率化における目的と手段の取り違えと同じ間違いを犯すことになり、自ら将来のチャンスを摘んでしまうことにもつながりかねません。
こうしたことが起こらないようにするためには、施策を実行する現場とは別の、より長期的な視点で「将来」にも目を向けた戦略のコントロール、マネジメントを行う役割の人間がしっかり「効率化」の意味(目的)を理解することが何より重要です。
「いま」のオペレーションに集中している現場は「効率化」という命令を誤解しがちであるということ。
誤解を避けるためには目的を明確にした上で、効率化の達成目標とそれによって得られるメリットの目標値をともに明確にした上で、効率化の指示を出すことが重要でしょう。
また「効率化」の指示は得てしてあまり気持ちのいいものではないですから、そうした現場の気持ちの面も考慮して、それが達成されるとどんな利点があるのかを明確にしてモチベーションを損なわないことも、マネジメントを担う人の役割だと言えます。
すべては将来の機会をつぶさないために。
さて、次回は、Web標準化時代のWeb制作ワークフローについて取り上げてみたいと思います。