このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。
2005年03月22日
『強者のしくみ』
マーケティングユニット 棚橋
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ひさしぶりに目からウロコがおちるビジネス書に出会いました。『強者のしくみ 論理的思考と全体最適を徹底する会社』(磯部洋著、ダイヤモンド社刊)という本です。
著者は、この本の目的として、強者を強者たらしめるしくみについて、「それらのしくみを解明して、少しでも多くの企業に"しくみによる企業運営"を取り入れて強い体質に変身していただく」こととし、2つのエクセレント・カンパニーである、セブン・イレブンとしまむらのベンチマーキングを通して、「強者にはしくみがある」ということと「それはどんなものなのか」を論じています。
本書が扱う"しくみ"について雰囲気を理解いただくために、まえがきの冒頭を引用してみます。
「"強者のしくみ"というものがあるのなら"弱者のしくみ"というのもあるのだろうか?
答えはノーだ。"弱者のしくみ"というものはない。弱者にはしくみというものがないからだ。
しくみがないから弱者にとどまっているとも言える。
弱者はしくみではなく、日により時によってコロコロ移り変わる上司の恣意、もしくは問題の発生の都度(ということは問題は大小日々発生しているから日常的に)開かれる関係者の会議や打合せによって動いている。
これに対して、強者はしくみで動いている」
著者が本書で扱っているのは、強者の条件としての"しくみ"であることがこの引用から感じてもらえるのではないかと思います。
さて、実際、私がこの本を読んでみて感じたのは、私が普段、仕事をしている場面でも、うまくいっているところにはしくみがあり、逆に、うまくいっていないところにはしくみがないのだということです。
例えば、私が仕事をする中でも、人的リソースが足りないとか、繁忙期にプロジェクトが平行に走っている場合にミーティングの時間が確保しにくいなどの問題が時々発生しますが、実はこれも単純に、では、人員を確保すればいい、うまく時間配分してミーティングができるようにすればいいといった個別の問題ではなく、根本的なしくみの不在によるものだということがわかります。
基本的に、しくみがなければ、その都度、判断が発生します。都度の判断が発生するということは、以下のような問題を生じさせます。
逆に言えば、しくみがあれば、不必要な時間的ロスもコミュニケーション・コストも省くことができ、また、判断、決定を属人的な能力に頼らずに済むので、優秀な人材にばかり頼らなくてもよくなるということです。ということは、しくみがあればそれだけ生産性が上がり、それゆえ、しくみを持っている企業は強者になれるということだと思います。
しくみというものを誤解のないよう理解していただくためには、著書のこんな言葉が参考になるのではと思います。
「日本の製造業は、ロボットの導入等FA化が進み向上における生産性は世界のトップクラスだが、本社における生産性、すなわち、ホワイトカラーの部分は世界でも最下位に属すると言われていることがそのあたりの状況を物語っている」
ようするに、しくみというのは、何も資材調達、製造、販売、流通といった顧客への製品の提供に関わるプロセスだけを指しているのではないということです。「売れるしくみ作り」としてのマーケティングをはじめ、利益をあげるしくみ、成長するしくみ、イノベーションを行なうしくみ、市場環境に適応するしくみ、顧客を知るしくみなど、企業活動を行なう上でしくみが必要な場面は他にもさまざまあります。ようはこういうところにしくみがなければ、すべて都度対応、優秀な人材による属人的な努力、多大な時間、コストを要する会議や打合せなどが必要になるということで、それでは競争に勝ち抜ける企業になるのはむずかしいということです。
さて、こういうしくみという視点で、Webマーケティングをとらえると、あらためてわかる重要なことがあります。それはWebをビジネスに有効に利用しようとすれば、必ず、ビジネスのしくみの中にどうWebを組み込むかを考えることが最も重要であるということです。そのことを考えずに、SEO対策は集客に効果があるだとか、アクセスログ解析はWebサイトの効果を測るために必要なツールだと言ってもはじまりません。
まず、はじめにすべきことは、自社の事業がどのようなしくみで動いているのかを把握し、そこにどうWebサイトを組み込めば効果的なのか、あるいは、Webを利用することで不足していたしくみを構築することはできないかを考えることです。SEO対策を行なう、アクセスログ解析を行なう、新たにコンテンツを追加するといった具体的な施策を考えるのは、そうした現状把握と基本戦略が明確になってからでなければ、しくみのない"弱いWebマーケティング"しか実施できないでしょう。