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このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。

2005年09月02日

カタログと目録 ~売買の場における情報デザイン、ユーザビリティ~

マーケティングユニット 棚橋

弊社Webサイトのコラムのほうでも「Webサイトにおける情報設計と情報のアーカイブ」と題して取り上げましたが、いま、読んでいる『美術カタログ論 記録・記憶・言説』(島本浣著、三元社刊)という本は、情報デザインとWebマーケティングやWebブランディングの関係を考える上で非常に興味深い本です。

いろいろ興味をひかれたことがあるのですが、その1つにカタログと目録の違いがあります。

著者の島本氏は、カタログの出自を財産目録に見出し、「目録は個人や集団の所有財を記録・記憶として表象するものだが、それだけでなく、財の集中する場-昔であれば王侯や貴族、近代では資本家や国家がすぐに想起されるが-の権力や趣味の一覧表ともなる」と記述した上で、「十七世紀になると、相続者が何らかの理由で個人の財産を売りにだす際に、財産目録は印刷されるようになってくる。このとき、目録はカタログとなる」と述べています。
つまり、財産目録がカタログになる瞬間、そこには財産を通商する市場(例えば、オークション=競売会)=買い手の存在が想定されるわけで、中身(リスト)の記述の形式についても、内輪(財産の継承者、財産継承を管理する役人など)を意識したものから、基本的には万人を対象としたオークションでの買い手を意識したものへと変化します。

島本氏は、このカタログと目録の違いについて、「カタログは数え上げることを本質とする目録と違って、分類と作品(あるいは商品)の記述、そして表象を本質とする一覧表(リスト)である」と述べています。
実際、競売カタログが17世紀に登場し、18世紀にある程度の標準化が確立されていく中で、商品である作品を表象する記録の方式は、作家のアルファベット順の分類や作品の流派別分類、作品のタイトル、作者名、絵の大きさ、描かれているイメージなどの記述に関して、様々な試行錯誤が行われたようです。
これは売買の場において、商品が最もよく売れるためのマーケティング・コミュニケーションを情報デザインという観点から考え、1つの標準化が試みられた好事例であると思います。
そして、こうした試みにより1つの標準形が確立された競売カタログ(オークション・カタログ)の情報デザインは、後に写真による作品の図版などが付加されることはあっても、基本的には現在にも引き継がれているという意味で、データの正規化もしっかりしているはずで、オークションを中心としたアートマーケットにおけるインデックス(市場全体の動きを示す指標化や指数化)化も容易な形式となっているのではないかと思われます。

株式市場がそうであるように、市場全体の動きを示す指標としてのインデックスを持つことは、市場における商品の売買をよりスムーズにします。
データベースの世界で、インデックスがテーブルに格納されているデータを高速に取り出す為の仕組みを実現し、インデックスの適切な使用よりSQL文の応答時間が劇的に改善することが可能なように、情報設計において、データの正規化~インデックス化がきちんと行われれば、情報の検索性は高まり、データベースのユーザビリティは向上するわけで、それがビジネスに用いられるデータベースであれば、ユーザーの利用度も自然と高くなってきます。
セマンティックWebの可能性」の回でも触れましたが、現在、インターネットの技術において、注目を集めているセマンティックWeb技術が目指すのも、こうした検索性の向上です。

先の本を読んでいると、美術カタログの分類概念、記述形式が標準化される歴史の中では、市場の成熟度にあわせて、時には作品解説にその作品の持つ意味を啓蒙的に紹介する記述が含まれていたりした時期や、作品の説明も描かれたイメージとモノとしての作品を示す作品サイズが混在する記述から、描かれたイメージとモノとしての作品の記述を完全に分離する記述への変遷など、さまざまな記述形式が試みられながら、市場の要請(オークションに参加する買い手の意見)なども踏まえながら、記述形式が標準化されていく過程が見られます。
まさに、それは「セマンティックWebの可能性」の回でも触れた「意味の使用説」に基づく記述形式の標準化であるといえ、記述形式に現実を従わせようとするのではなく、現実に応じた記述形式をつくるという高いユーザビリティを可能にする方向性を示すものです。
財産目録から競売カタログへの記述形式の変更は、美術市場における買い手のユーザビリティを向上するための試みであり、きちんとユーザーの声に耳を傾けるという「意味の使用説」に準拠したことにより、市場そのものの活性化にも貢献するマーケティング的試みであったと思います。
もちろん、市場活性のために売り手の側も自分たちの商品をどう記述することが妥当かを検証したことが、こうしたユーザビリティ向上~市場の活性化に結びついたことは言うまでもありません。

これまでのビジュアルデザイン先行のWeb構築においては、ユーザビリティといえば見た目でわかるユーザーインターフェイスをどう設計するかのみが話題になりがちでした。
しかし、初期の写真も挿絵もない文字だけの美術カタログの記述形式の歴史を見てもわかるとおり、ユーザビリティの向上、しいては、それに基づく市場の活性化をもたらしたのは、他でもないテキスト中心の情報デザインであったことがわかります。
Webにおいてもユーザビリティの向上のためには、単にユーザインタフェイスの観点やサイト全体の情報のカテゴライズといった観点だけで考えても、大した効果は得られません。
ここで効果といっているのは、文字通り、企業がWebサイトに求めるマーケティング効果(売上向上、問い合わせ件数向上)であり、それを実現するためのアクセス数の向上やSEO効果、一人当たりの閲覧ページ数の向上、リピートユーザー数の向上などです。
こうした効果を生み出すためには、仮説としてのユーザーシナリオをきちんと定義した上で、そのページ、あるいはページ内の1つの情報単位がユーザーシナリオの中でどんな役割をもつのか、また、それがビジネス課題にどう貢献するのかを明確にした上で、各ページ単位、ページ内の情報モジュール単位で、情報設計を行うことが必要なはずです。
Webユーザビリティに対する大きな誤解」でも述べましたが、単に人間工学的に一般的なものとしてのWebサイトの使い勝手をうんぬんしても決してビジネスの効果は大して得られません。
それは実際のビジネス(顧客と企業の現実の出会い)を知らない「意味の対象説」に基づくWeb業界の論理に基づくユーザビリティ設計だからであり、そこにはビジネスのメインプレイヤーである現実の企業と顧客の観点がすっかり抜け落ちてしまっています。
そうではなく、ビジネスに効果をもたらすユーザビリティ設計のためには、「意味の使用説」=ある特定の状況(ある商品、ある企業との出会いという状況)におけるユーザーの行動を最重要視する形で、情報デザインにおいても、ビジュアルデザインにおいても、ユーザビリティに考慮した設計に取り組む必要があるのは、もはやいうまでもないでしょう。

こんなことをあらためて考えさせてくれたという意味で、『美術カタログ論 記録・記憶・言説』という本は非常に興味深いものでした。
Webマーケティングそのものの発展を実現していくためには、こうした外からの視点でWebそのものを見つめなおしてみるのも重要なことだとあたためて思いました。

さて、次回も『美術カタログ論 記録・記憶・言説』を参照する形で、アートマーケットとイノベーター理論と題してお送りします。

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