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実践!Webマーケティング:Blog

このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。

2006年05月02日

総表現社会

マーケティングユニット 棚橋

梅田望夫さんは『ウェブ進化論』の中でWeb2.0的な現在の環境を表現するのに「総表現社会」というキーワードを使っています。
ごく一般的なユーザーがBlogやソーシャル・ネットワーク・サービスを利用して、自身の考えや日々の出来事を綴るさまは、確かに「総表現社会」という言い方がぴったりだと思います。

■「総表現社会」と「ファインダビリティ」

しかし、この場合、表現とは単に、Blogやソーシャル・ネットワーク・サービスでの言葉を使った表現のみにとどまらないでしょう。

前回の「体感するWeb2.0」では、「Web2.0はまさにいまこの現在において、増え続ける情報量をいかに対処するかに関する技術であり、また情報量の増加そのものを加速させる技術でもあると考えることができる」と書きました。
そこで述べたことをあらためて図示すると、以下のような表現ができるかと思います。

情報が情報を生む複利的増加

上図で描いているように、「総表現社会」の到来による情報量の増加は、そのまま、もう一方の「ファインダビリティ」を向上する技術、しくみの必要性に大きく関わっています。
ファインダビリティあるいは検索性の向上」で述べたように、ユーザー自身がBlogやSNSによる自己表現手段を得ると同時に、ユーザーは「必要な情報を見つけるための検索性がより重要度を増し」た世界に生きているのです。

もう1つ上図を見ていただけるとわかることは、表現の手段にはBlogやSNSでの文章による表現だけでなく、ポッドキャストやビデオキャストによる音声や動画による表現、Googleマップに代表される公開APIを使ったマッシュアップによる独自のWebサービスの開発などもユーザーの自己表現と考えることができるでしょう。

■ファブラボでのパーソナル・ファブリケーション研究

こうした総表現社会の未来を示すものとして、さらに面白い研究がアメリカでは行われています。
マサチューセッツ工科大学のビット・アンド・アトムズセンター所長をつとめるニール・ガーシェンフェルド氏が推進するファブラボというプロジェクトがそれです。

ファブラボでは、パソコンがかつてメインフレームという形で企業の独占状態であったコンピュータを個人の手に届くようにし、現在のWeb2.0的な総表現社会を可能にしたのと同様に、企業の独占状態にある製造機械、生産ツールを、パーソナル・ファブリケータという形で個人が自由に扱えるようにすることで、個々人が「ほぼあらゆる物をつくる」ことができるようにするための実践的な研究が進められています。

そのプロジェクトを紹介している著書『ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け』の中で、ガーシェンフェルド氏は「リテラシー」について次のように書いています。

時の経過とともに、ルネサンス以降進化したすべての表現ツールを包含すべき「リテラシー」という言葉が、「文字の読み書き」というきわめて狭い意味に限定されてしまった。ものづくりを学ぶことは、人間性の解放という行為の基本的な一面ではなく、技能の習得または世俗的な商売のどちらかを目的とする行為にすぎないという思想のもとに、リベラルアートと非リベラルアートが分離されてから久しい。

ニール・ガーシェンフェルド『ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け』

ここでの「リベラルアート」という言葉は、古い中世の四学(幾何学、算術、天文学、音楽)と三学(文法、論理学、修辞学)の7つのリベラルアート(自由七科)を身につけることでもたらされる人間性の解放を意味していたルネサンス時代の意味で用いられています。
「人間性の解放」ということを考えれば、「なぜ個人がBlogを書くのか?」、「オープンソースのプログラマーがなぜ報酬もなしに自主的にバグなどの問題の解決にあたるのか?」といった疑問に対する回答も得られるのではないでしょうか。

■「総表現社会」はビジネス環境にどんな影響を与えるか

一方で、Web2.0によって現実化し、その先にあるパーソナル・ファブリケーションによって、さらにその範囲を拡大するであろう「総表現社会」は、現在の市場のあり方にも大きな変化をもたらすことになるでしょう。

オープンソースソフトウェアと同様に、オープンソースハードウェアは、簡単なものづくりの機能を出発点として、パーソナル・ファブリケーションのような「オモチャ」に「本物の機械」の肩代わりができるわけがないと高をくくっている会社の足をすくうことになるだろう。

ニール・ガーシェンフェルド『ものづくり革命 パーソナル・ファブリケーションの夜明け』

もちろん、それは企業全体のマーケティングのあり方や企業の存在意義に変化を促すだけでなく、企業で働く個人にとってもワークスタイルの変革を求めることになるでしょう。
以前、「Blog:リテラシーを身につけるためのメディア」では、従業員が積極的にビジネスBlogを書くことで、企業と顧客をはじめとするステークホルダーとのコミュニケーションの橋渡しを行うことの重要性について書きましたが、さらにその先には、より個々の従業員の力が問われるビジネス環境がやってくるのかもしれないと感じます。

■疎結合

企業と従業員の関係性の「これまで」と「これから」の違いは、現在、システム開発の分野で話題となっている密結合と疎結合の違いにも似ています。

これまでのシステム開発においては、トランザクション性能を重視して単一のシステムを1つのアーキテクチャで完結させる密結合の手法が用いられることが大多数でした。しかし、ビジネスの変革に対応した迅速なアプリケーション変更を求められることが多い最近のWebサービス開発においては、アプリケーション連携を想定した柔軟性を高めるために、SOAPなどのXML技術を用いた疎結合の手法を用いられるようになっています。

疎結合の採用においては、トランザクション性能(速く動く)ことを多少犠牲にしてでも、アプリケーション変更への対応(早く書く)ことが重視されます。
つまり、逆にいえば、疎結合で結合された各点(単体としてのアプリケーション)は、密結合された場合のそれより性能に優れていなければ、全体としてのシステムの機能性を著しく劣化させることにつながりかねないのです。

このことを先の企業と従業員の関係に重ね合わせてみると、「これまで」が全体としてのトランザクション性能を重視した形で全体として速くアウトプットを出すよう企業の仕組みが最適化されていたのに対し、「これから」の総表現社会における企業と従業員の関係においては、疎結合をベースに各点(各従業員)それぞれが早くアウトプットを出すことで迅速な環境適応(個別の顧客ニーズへの対応など)が可能な仕組みへと変化していくのではないかと思います。

「分離されて久しい」リベラルアートと非リベラルアートが再び結合されるとき、同時に「世俗的な商売」と「人間性の解放」も結合される方向にシフトしていくのでしょう。

※参考文献

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