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このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。

2006年05月23日

Web2.0をすこし離れた場所から見る

マーケティングユニット 棚橋

4月から東京を離れ、名古屋に出向して早2ヵ月弱。離れてみてはじめて見えてくることもたくさんあります。

東京という街の騒々しさに慣れた自分だったり、PCのWebブラウザ経由でみえるインターネットの世界が実は非常に限られた空間でしかないのだということだったり、すこし前までBlogやSNSのことがあまりわからなかった顧客企業のWeb担当者様が自分でmixiをやりはじめて2ヶ月もたてば、BlogやSNS経験のないWeb業界関係者なんかよりよっぽどBlogやSNSのことを本質的に語ることができるようになったりするのを目の当たりにして、BlogやSNSなどがなぜこれだけ短期間に爆発的なブームにつながったのかの答えの1つが実感できたり。普段の立ち位置からは決して見えなかったはずの様々なことに気づいたりします。

■Web2.0マイオピア

離れてみて気づいたことの1つに、Web2.0ブームをめぐる人々の近視眼的視点があります。

マーケティングの分野で「マイオピア=近視眼」という言葉は、セオドア・レビット教授が1960年刊行のハーバード・ビジネス・レビューで「マーケティング・マイオピア」という言葉を用い、それまでの欧米企業で支配的な考えであったモノづくり絶対主義をやめて顧客満足追求を目的とするマーケティングを中心に企業は活動すべきであるという主張をしたことが有名です。
今では当たり前のことのように思われている「顧客主義」ですが、当時はマーケティング史上におけるコペルニクス的転回として人気を博しました。しかし、実際、企業が製造からマーケティングへ企業活動の中心を移したのは1980年代に入ってからだと言われています。そこには20年もの開きがあり、この開きこそがマイオピア=近視眼的視点によって生じたものだといえるのでしょう。

私はそれと同じような印象を、最近のWeb2.0をめぐる言説に感じたりします。
一方ではWeb2.0の可能性を賛美する視線があり、他方にはWeb2.0を疑問視するか、もしくはその得体の知れない理解不能な存在に怯えと拒否感をおぼえる視線があるという構図があるのですが、一見、正反対にみえる両者はともに、あまりにも近視眼的にWeb2.0に視点を集中させてしまっているという点で共通しています。それはWeb1.0という対象を便宜的に捏造することでWeb2.0との違いを浮かび上がらせようとする擬似的な比較論でも同じことです。それほど、近くに立って物事を見てしまうと、何か大事なものを見落としてもおかしくはありません。あまりに夢中になりすぎると自分を見失うこともあるでしょう。

■Web2.0的技術からいったん身を離す

Ajaxやソーシャルネットワークサービス、マッシュアップやPlaggerなど。技術やツール、手法などの話をするのもいいのですが、イコール、それがWeb2.0なのか?というと、ちょっと疑問に感じてしまうこともあります。そもそも極端な話、それがWebという領域だけに関する話なのだとしたら、その影響力がこれまでと比べてどんなに大きくなろうとも、ビジネスの観点からも、個人の生活の観点からも、そんなにすごいものなのかというとやっぱりそうじゃないでしょうという気もします。

自分でBlogを書いていると、次の朝、目覚めたときに予期せぬコメントやトラックバックに驚きや喜びを感じることがあります。Blogを使って情報発信や他のブロガーの方と意見の交換を行ったり、RSSリーダーやソーシャルブックマークをうまく使って効率的に情報の収集をしてたりしていると、まるで「欲しい情報」が自分から寄ってくると感じることもあったりします。そんな日々の喜びや驚きを得られるのもWebのネットワーク環境がWeb2.0と呼ばれる形に進化したことが要因であるのは間違いないと思います。その意味でWeb2.0がこれだけ注目を集めるのも私自身としては非常に納得のできる部分も多いのです。
ただし、そうはいっても、私の喜びや驚きはWeb2.0そのものに向けられているわけではなく、情報あるいは知識というものに向けられていることもはっきりしています。企業がWebマーケティングのために必要としているのはWeb2.0のような情報技術かもしれませんが、一般のユーザーが欲しがっているのは必ずしも情報技術ではなく、むしろ、自分の役に立つ情報そのものだったりします。

例えば、私自身、よく本を読むのですが、本の情報を入手する手段はそれこそさまざまで、ネット上でAmazonのサイトで探すこともあれば、他のブロガーの方の紹介記事で見て読んでみようと思うこともありますし、当然、本屋で物色することもあります。さらに付け加えるなら読んだ本そのものが他の本を紹介してくれている場合も多く、それこそWeb上のリンクをたどるように、次にはそこで紹介された本を読み始めることは少なくありません。
Web2.0的技術の話題からいったん身を離してみると、「総表現社会」のエントリーでも書いたように、Web2.0的技術の多くが日々膨大に生まれてくる情報をいかに効率的、効果的に活用できるようにするかという目的を達成するための手段であることに気づくはずです。

■IT社会と情報社会

IT社会という切り口で見てしまうと、どうしてもこうした実際のユーザーが日々Web上で情報を利用している場面を見逃しがちてしまいがちです。現在はIT社会である以上に、情報社会です。ましてやWeb2.0社会でないのは明白です。たとえ、その影響力がどんなに大きくてもです。Web2.0をきちんととらえるためには、むしろ、その技術を目的としてみるのではなく、情報社会にいきる人々のための手段として見ることがやはり大事なのではないかと思います。Web技術者もときには目の前の技術から離れて、ユーザー視点でものを見ることが大事なことでしょう。

はじめに書いたとおり、名古屋で暮らしはじめて早2ヵ月弱が経つのですが、いまだに名古屋周辺の巨大な地下街には馴染めずにいます。地図をみてもどこに何の店があるのかわかりませんし、最近ではすこしマシにはなってきたものの、最初の頃は一度行った店に再び行くのもむずかしいほどでした。
こんな風に書くと、名古屋の地下街を体験されたことがない方は私が方向音痴なのかと思われるかもしれませんが、方向音痴どころか、むしろ、他の人にくらべれば結構方向感覚には秀でたほうだと思います。普段なら地図と目的地を一致させるのもそんなに苦にしないのですが、それはあくまで地上に限った話だったことに、名古屋の地下街を経験してわかりました。
『アンビエント・ファインダビリティ―ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅』の著者ピーター・モービルが書いていますが、「現在の大雑把なデータベース情報と平面的な地図インターフェースは、3次元の都市環境の複雑さを表現するには不十分」です。Googleマップの登場以来、一躍脚光を浴びるようになってきた地図情報サービスやGPSも絡めた位置情報サービスですが、単に地図情報、位置情報といっても、その地図や航空写真、あるいは路線図のようなものを、実際に私たちが歩いたり、クルマを運転したりながら、接している街の景色と重ね合わせるのは、想像するほど、単純ではないことをあらためて感じていたりします。

■HII=ヒトと情報の両者からすこしずつ身を離した位置に立つ

こうした問題はAjaxやFLASHなどのリッチコンテンツ表現技術や、GPSなどの技術がいくら発達しようとも解決しない問題です。それはピーター・モービルが述べているように「アンビエント・ファインダビリティはコンピュータの問題というより、人間と情報の間の複雑なインタラクションに関わる問題」だからです。
人はPCのモニターを通じてのみ、情報と接点をもつわけではありません。情報へと通じる窓は、ときには携帯電話の小さな画面であったり、車のカーナビのモニターだったり、また、ときには紙に印刷された文字や図版だったり、人が話す言葉だったり、道路標識やお店の看板、建物などのランドマーク、四季折々の花や草木が発する情報だったりもするでしょう。
人間が実際に情報との相互作用をもつ状況にあるとき、その人が実際に情報との相互作用から何を感じ、何を理解するのかを考慮しなければ、目的のお店にたどり着けないといった結果が簡単に生じえてしまいます。

そして、これはWebという「あちら側」の世界だけを知っているだけでも、「こちら側」の物質世界のことを知っているだけでも、解消しえない問題だったりします。それはその両者から同時にほんのすこしずつ身を引き離した上ではじめて見えてくるHII(Human Information Interaction)という領域に存在する問題なのではないでしょうか?
先ほど、ユーザー視点でものを見ることが大事だと書きましたが、それは必ずしもユーザーと同一の立ち位置を占めるということではなく、HIIのコンセプトどおり、ヒトと情報の間(すなわち両者からともにすこしずつ身を離した位置)に立って、ものを考えることのできる姿勢を身につけることではないかと思うのです。

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