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このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。

2006年03月13日

ハブとショートカットのネットワークにおける役割

マーケティングユニット 棚橋

前回は「スモールワールド・ネットワークとWebマーケティング」と題して、ネットワーク科学の視点からWebマーケティングを捉えなおしてみるとどうなるかということで、話をはじめてみたところ、タイミングよく、先日、CNET Japanのほうでスタートした「先端研ブログ」(ヤフーで自然言語処理技術の研究とWebサービスへの適用の仕事をしていらっしゃる山下達雄さんが担当)でも、「リアルとWebのネットワーク分析」というエントリーで、ネットワーク分析とWebを中心にしたマーケティングとの関係を考察したものが掲載されていました。
ネットワーク科学そのものが科学、数学の分野でも最近注目を集めている新しい分野なのですが、ここに来てそうした影響がビジネスの方面にも見えはじめてきているようにも感じました。

そんなことを感じつつも、引き続きネットワーク科学の視点をどうWebマーケティングに活かせるか、考えていくことにしましょう。

ユーザーがBlogやSNSを通じて情報発信、コミュニケーションを行えるようになったことで、インターネット上はこれまで以上に口コミの影響が出やすい環境になってきていると考えることができます。また、RSS/Atom Feedやトラックバック、microfomatsなどのXML技術によってWebのネットワークは構造化が進んでおり、今まで以上にネットワークの隔たりの小さいスモールワールド・ネットワークの様相を呈してきました。

■成長するネットワーク

『新ネットワーク思考』の著者で統計物理学者のアルバート=ラズロ・バラバシは、インターネットやWebのネットワークは成長するスケールフリー・ネットワークだといっています。スケールフリー・ネットワークとは、各ノード(要素)のもつ次数(リンクの数)の分布がべき乗則に従うネットワークで、特徴的なスケール(縮尺)がない(フリー)という意味で名づけられています。
インターネットやWebのネットワークは時間とともにノードや次数を増やしていく成長するネットワークです。前回紹介したもう1つのスモールワールド・ネットワークである、ダンカン・ワッツとスティーブン・ストロガッツが発見した平等主義型ネットワークは、こうした成長を想定したものではありませんでした。しかし、実際のネットワークは、バラバシのモデルのように成長や変化(ノードやリンクの数は変わらないが、つながりが変わる)が見られるものも多くあります。バラバシらの発見はこうした現実のネットワークに近いモデルを提供したことで注目を集めました。

■優先的選択とべき乗則

しかし、成長するだけでは次数分布はスケールフリーにはなりません。成長するネットワークがスケールフリー・ネットワークとなるためには、

もう1つ「優先的選択」と呼ばれる仕掛けが必要である。富むものはますます富み、貧しいものはますます貧しくなるのが、80対20の法則であるベキ則であった。優先的選択がこの不平等を実現する鍵なので、これを説明しよう。(中略)例えば、ウェブサイトがなすWWWならば、ハイパーリンク(枝)をすでにたくさん受け取っている検索サイトは有名である。よって、新規ウェブサイトのリンク先としても選ばれやすい。

増田直紀、今野紀雄『「複雑ネットワーク」とは何か』より引用

優先的選択は複雑なネットワークの中で何の規制もなくても自然発生的に発生します。
マーク・ブキャナンはこうした現象について次のように書いています。

複雑性の研究の中心となっている概念に「創発」がある。これは、相互作用をする多数の要素からなる複雑な形の内部には、重要なパターンがまったくひとりでに出現するという考え方である。経済の分野では、アダム・スミスの「見えざる手」とパレートの法則の2つが、創発的な特性の代表的なものだ。

マーク・ブキャナン『複雑な世界、単純な法則』より引用

実際、こうしたべき乗則の関係は、Webのネットワーク上でも頻繁に見られるものです。
例えば、下のグラフは、最近、話題の本『ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる』(梅田望夫著、ちくま新書、以下『ウェブ進化論』)に関連するWebページがそれぞれ、はてなブックマーク(ソーシャルブックマーク)にどれだけブックマークされたかの分布を示したものです(2006/03/06現在、ブックマーク数10以上に限定、現在の数値はこちらを参照)。

ウェブ進化論ブックマーク分布

『ウェブ進化論』は、2月7日に発売になって一週間足らずで品薄となり、ついには「王様のブランチ」にも取り上げられました。現在、発売から4週間で六刷、累計15万部突破しているとのことです。
上のグラフをみても、被ブックマーク数が200を超えるページが2つ、200近いものが1つあることからも高い注目度がうかがえます。それ以上に、被ブックマーク数10以上あるものが50件以上あり、さらには被ブックマーク数がそれ以下のものはもっとあり、ブックマークがないものも含めるとすごい数のWebページがこの本を話題にしているということが、さらにこの本の注目度の高さを物語るものだといえるのではないでしょうか。

注目すべきは上のグラフもまた見事に不均衡さを表していることです。
先にも書いたとおり、このグラフは10件以上ブックマークされたものに限定したものですので、実際の不均衡はさらに大きくなっています。きれいなべき乗則にまではなっていませんが、それに近い偏りが見られます。
さらに、この不均衡さはブックマーク数だけに表れているのではないことは容易に想像できます。当然、数多くブックマークされているページほどアクセスが多くなっているでしょう。アクセスが多くなれば、そこでまたブックマークされる機会が増えます。
不均衡が生じる要因はこうしたところにもあるのです。

■ネットワーク内の距離とショートカット

さて、梅田望夫さんの『ウェブ進化論』がヒットした要因をネットワーク的視点とマーケティング視点でみると、おもしろいことがわかるのですが、それに関しては、次回にあらためて取り上げることにして、もう少し、スモールワールド・ネットワークの特徴について見ていくことにしましょう。

前回も紹介した『複雑な世界、単純な法則』の中で、マーク・ブキャナンはスモールワールド・ネットワークの特徴を次のような簡潔な言葉で示しています。

スモールワールドという考え方そのものは驚くほど単純である。必要なのは、少数の長距離リンク、もしくはきわめて多数のリンクをもつハブだけで、これでもうスモールワールドになる。こんな単純な事実が、人間の脳や、われわれを社会につなぎとめているさまざまな人間関係の網、さらには話したり考えたりするときに使う言語にいたる、あらゆる構造にスモールワールド・ネットワークが生じる理由を明らかにする。

マーク・ブキャナン『複雑な世界、単純な法則』より引用

このことを次の図で考えてみましょう。

smallworld

上の図で、青いノードをスタート地点にすると、緑のノードまでは4ステップ、ピンクのノードまでは7ステップとなっています。
一般に、隔たり係数が小さいほど、ノード間のコミュニケーションはとりやすいと考えることが可能です。ネットワーク内の距離はノード間の緊密性と考えることができます。上の例なら、緑のノードとのほうがピンクのノードよりコミュニケーションが簡単に行えると考えてよいでしょう。
このネットワークをWebのネットワークだと考えれば、緑には4クリックでたどり着けるので目にする機会もありそうですが、7クリックを要するピンクのページにたどり着くことはほとんどないかもしれません。

さて、この図のネットワークをあらためて見直すと、緑のノードがピンクのノードより有利なのは、青のノードから数えて2ステップ目にショートカットの役割を果たしているリンク(点線のリンク)が存在しているからだということがわかります。
もし、この1本のリンクがなければ、どうなるでしょう? 青から緑のノードに進む際に、いったん、オレンジ色のハブを通って遠回りしなくてはならなくなり、緑のノードとの隔たりはたちまち大きくなってしまいます。なんとそのステップ数は8となり、ピンクまでのステップ数よりも大きくなってしまうのです。

このことからもスモールワールド・ネットワークにおけるショートカットの重要性がおわかりになるのではないでしょうか。
見た目の距離では緑のノードはピンクより近くにありますが、ネットワークの距離は見た目とは関係ありません。緑のノードとの距離は1本のショートカットがなければとても大きくなってしまいます。逆にいえば、このショートカットがあるおかげで青のノードを含むクラスターと緑のノードを含むクラスターは見た目どおりの緊密な関係をもつことが可能になっているのです。

■ネットワークをつなぎとめるハブ

もう1つスモールワールド・ネットワークで重要な役割を果たすのが、中心でネットワーク全体をつなぎとめる役割をもっているオレンジ色のノードです。こうしたノードはハブと言われます。
もし仮にこのハブが存在しなければ、ネットワークは、より小さなネットワークに分断されてしまい、青からピンクのノードへの道は存在しなくなってしまいます。次数の少ない他のノードを取り除いても、ネットワークに大きな影響はありませんが、ハブとなっているネットワークが取り除かれたり、機能しなくなったりするとネットワーク全体が影響を受ける可能性が大きくなるのです。

こうした次数の多いノードとしてのハブは、先に見たような「優先的選択」の結果として生じます。ブキャナンによれば、こうしたべき乗則のパターンは、インターネットやWebなど、人間が関わるネットワークだけでなく、あらゆる河川の水系のネットワークやビール酵母などのゲノム地図にも見られるそうです。こうした「優先的選択」が生じる明確な理由はまだ解明されていませんが、成長するネットワークがスケールフリー性を獲得し、ネットワーク全体の距離を小さくするためには、べき乗則-ハブのパターンが欠かせないものであることはわかっています。

■ハブを重視するGoogle

さて、こうしたネットワーク間のリンクの分析というと、Googleのページランクを思い浮かべる方がいらっしゃるのではないかと思います。
Googleはページランク評価を行う際、対象のWebページにリンクしているWebページの数と各Webページの重みを元に評価を行っています。これをネットワーク科学の用語で言い換えると、対象ページの次数とそのページにリンクされたページの次数により評価を行っているということができます。

このGoogleの考え方は、たくさんのページからリンクされたハブを重視するものだと言えるでしょう。
先の図で言えば、オレンジ色のノードのページランクが高くなる可能性が大きく、かつオレンジ色のノードから一段階でリンクのつながったノードも評価が高くなる可能性があるということです。また、オレンジ色のノードから一段階でつながったノードの中でも自身がたくさんのリンクをもつハブ的な役割を示しているノードのほうが他より評価されるというわけです。
Googleはネットワークの視点からWebページの集合を評価しているのです。

■Web2.0とショートカット、ハブ

これからのWebマーケティングにおいてネットワーク理論の考え方が参照できるようになったのは、Web2.0的環境が以前に比べてネットワークの構造がよりしっかりしたものとなってきているからです。最初にも書いたとおり、それはWebページ間のリンク構造をみてもそうですし、BlogやSNSを介した人のつながりという面でもそういえます。

XMLがショートカットをつくる
RSS/Atom FeedやトラックバックなどのXML技術はサイト間のシンジケーションを高めます。こうしたシンジケーションがまだ攻略できていないクラスターとの間に新たなショートカットを生み出す可能性があります。
  • オンライン型RSSリーダーでの共有がもたらす、新たなクラスターへのショートカット
  • Blog間のトラックバック、トラックバック先からのバックリンクによるショートカット
  • RSS/Atom Feedを元データにするBlog検索サイトからのショートカット
ハブにつながる
これまでWebマーケティングにおいては、多くのアクセスを集める検索サイトやポータルサイトばかりが重要なハブとして注目を集めていました。しかし、膨大な情報量の中から必要な情報を効率的に探そうとするユーザーの欲求から、情報収集のためのツールは3S(Search、Subscribe、Share)をキーワードとして多様化しており、ハブとみなせるツールも多様化してきています。
  • 情報淘汰の仕組み~ハブとしてのソーシャルブックマーク・サービス
  • ハブの役割をもったブロガー、SNSのコネクター

このように変化したWeb2.0的ネットワークの特徴をうまくとらえ、マーケティングに成功したのが先に例をあげた、梅田望夫さんの『ウェブ進化論』だったのではないかと考えます。
次回は「『ウェブ進化論』は何故キャズムを越えたのか?」と題して、この点をもう少し深く掘り下げてみたいと思います。

※参考文献
マーク・ブキャナン『複雑な世界、単純な法則』(草思社)
増田直紀、今野紀雄『「複雑ネットワーク」とは何か』(講談社ブルーバックス)

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