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このコーナーでは、企業でWebサイトの運営に携わっている方、マーケティング部門等でWebの活用法について考えておられる方向けに、Webマーケティングの実践のための手法やノウハウ、事例をご紹介していきます。市場に出回る書籍や雑誌では論じられることない、Webマーケティングの最前線に触れていただければと思います。

2005年09月06日

アートマーケットとイノベーター理論

マーケティングユニット 棚橋

前回の記事では、「カタログと目録 ~売買の場における情報デザイン、ユーザビリティ~」と題し、島本浣氏の書いた『美術カタログ論 記録・記憶・言説』(三元社刊)を参照しながら、美術カタログの歴史の中での分類概念、記述形式を追うことで、Webデザインにおける情報デザインやユーザビリティに関して、あらためて考え直してみました。
その中で、美術カタログの変遷が、18世紀に確立されたブルジョワジーという一般市民を中心としたアートマーケット、あるいは、そうしたアートマーケット自体を可能にした買い手としての美術愛好家の誕生、美術愛好という趣味の確立と表裏一体で進んだことには、弊社Webサイトのコラム「Webサイトにおける情報設計と情報のアーカイブ」のほうで触れました。

こうした歴史を見ると、アートマーケットという18世紀に開かれた新しい市場において、それ以前の王侯貴族やほんの一部の大富豪の間で、博物学的な趣味の一部としてコレクションの対象となっていた絵画が、17世紀から18世紀にかけて大都市を中心に形作られた貨幣を中心とした市場経済の中で、歴史に新しく登場した富裕層(=ブルジョワジー)の間で、ひとつの投機対象としての商品あるいは愛好の対象としての商品として、オークション=競りによる公的売立てという開かれた市場で活発な取引が行われるようになるプロセスに、市場においてまさにイノベーター理論の展開される様子が見て取れるのも、先の本で非常に興味をもった点です。

さて、イノベーター理論とは、スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が著書“Diffusion of Innovations”(邦題『イノベーション普及学』)で提唱した、市場におけるイノベーションの普及に関する理論で、ロジャースは消費者の商品購入に対する態度を新しい商品に対する購入の早い順から、1.イノベーター=革新的採用者(2.5%)、2.オピニオンリーダー(アーリー・アドプター)=初期少数採用者(13.5%)、3.アーリー・マジョリティ=初期多数採用者(34%)、4.レイト・マジョリティ=後期多数採用者(34%)、5.ラガード=伝統主義者(または採用遅滞者)(16%)の5つのタイプに分類しています。
この5つのタイプは、下図のようなベルカーブ(釣鐘型)のグラフで表されます。

現在のマーケティングにおいても、新しいイノベーティブな商品を市場に投入する際には、こうしたイノベータ理論を参照しつつ、初期市場においては、オピニオンリーダーをターゲットに、オピニオンリーダーの購買行動の傾向に基づくマーケティング施策を展開するわけですが、まさに18世紀のアートマーケットの確立においても、いかにそうしたオピニオンリーダーとしてパリのような大都市に現れた新興富裕層(ブルジョワジー)をアートの買い手として取り込むかということを目的に、競売会(オークションの開催)、競売カタログの発行、オークションの下見会を行うためのギャラリーの開設など、さまざまなマーケティング施策が実行されています。

こうした施策が成功し、18世紀後半にはパリでの競売会が急増し、年間の開催数は50年代から80年代にかけて10年ごとに、58件、121件、274件、414件と増加し、「80年代には毎週1件の競売会が行われるまでになっていた」と島本氏は先の著書に記しています。
こうした18世紀の市場におけるマーケティング活動を経て、西洋においては、現在でもアートは最高の投機対象である商品として認識され、オピニオンリーダーに続くマジョリティ層にまでその市場規模を拡げています。

日本にはアートマーケットがないと言われますが、こうした歴史とイノベーター理論を照らし合わせてみると、アート市場にとっては、日本人はまさにイノベーター理論におけるラガードであり、その意味では、西洋のマジョリティ層に対するマーケティング手法では取り込むことのできない層ではないかという仮説が立ちます。
それゆえに日本のアートマーケットの活性化を図るのであれば、ラガードである層に相応しいマーケティング施策を企画・実行するほかないのだと思います。
その実行を行わずに「日本ではアートは売れない」と嘆くのはお門違いで、それは単に市場特性に応じたマーケティング戦略が採用されていないというだけのことでしょう。

さて、すこし話が逸れました。

『美術カタログ論 記録・記憶・言説』を読んでいて、あらためて考えさせる問題は、市場における言説が市場活性化をもたらすマーケティングにとっては非常に重要なポイントであるという点です。
美術カタログの歴史は、分類概念と記述形式の変遷、テキスト中心から複製図版を用いた形式への移行などを通じて、美術・アートという領域に、美術史という言説、美術品を見ることに関する言説など、市場において美術品の価値を左右するさまざまな言説を生み出す源泉ともなっています。
なぜ、それが価値を持つのか?といった問題を市場において語ることができるための言説を生み出すために、美術カタログはひとつの言説システムとして機能しています。

現在のマーケティングにおいても、マス・コミュニケーション、Webコミュニケーション、クチコミなど、さまざまな言説により、商品の売れ行きは変わります。
それらの言説は、ブランドを支え、コーポレート・レピュテーションを支える基盤として機能します。
現実と言説は表裏一体の形で、人々の購買意欲を左右します。
そして、この現実と言説のあいだをつなぐのが、さまざまなメディアであることは言うまでもないでしょう。

Webというメディアもそうしたコミュニケーションを支える重要なメディアの1つとなってきています。
それはおそらくどの業界、どの市場においても言えることでしょう。
とはいえ、別の市場で成功した事例が、自社の関わる市場で成功するかといえば、そうではないはずです。
それはメディア自体の問題やメディアの使い方の問題ではなく、市場におけるターゲットの見極めそのものに問題があるのではないかと思います
その際、きちんと見極めるべきことは、市場によって異なる市場成熟度にあわせて、イノベーター理論を参照することでコミュニケーションの内容・性格を吟味することが大切なのは、アートマーケットと美術カタログの言説の変遷を見るとわかるのではないしょうか。

さて、次回はユーザーインターフェイス設計だけではWebユーザビリティは向上しないと題して、WebユーザビリティとWebマーケティングの関係性を掘り下げてみたいと思います。

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